第100回箱根駅伝往路3区で区間賞の走りを見せる青山学院大学の太田蒼生。左は駒澤大学3区の佐藤圭汰=2024年1月2日、神奈川県

 100回目を迎えた箱根駅伝。出雲、全日本を制し史上初の2季連続大学駅伝3冠を目指した駒澤大学をおさえ、青山学院大学が2年ぶり7度目の総合優勝を果たした。AERA2024年1月15日号より。

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 スポーツにおける「流れ」の存在を、あなたは信じるだろうか? アメリカンフットボールのある指導者はこう話す。

「ゲーム自体に流れなんて存在しませんよ。人間の頭が勝手に作り出しているだけ」

 記念すべき第100回を迎えた箱根駅伝。大本命と言われた駒澤大学を軽やかに抜き去ったのが青山学院大学だが、今大会を振り返ると、往路で「流れ」が生まれていたことを実感する。

3区で競り負けた衝撃

 駒大は前回の箱根駅伝の4区から出雲駅伝、全日本大学駅伝と一度も首位を譲ることなく、21区間連続トップを維持していた。その絶対王者に何が起きたのか。大八木弘明監督(現在は総監督)に代わり、今年度から監督に就任した藤田敦史監督は、3区が終わった時点で選手たちに動揺があったと振り返る。

「3区で佐藤圭汰が青山学院の太田(蒼生)君に競り負けたことで、みんなびっくりしてしまった。圭汰の記録は十分な記録でしたが、圭汰自身も走り終わった後は涙で……。あそこからチームとしての想定が狂ってしまいました」

 佐藤圭汰は、昨年11月に1万メートルで27分28秒50のU20の日本記録を19年ぶりに更新した逸材。出雲、全日本でも佐藤がライバルを突き放し、優勝を引き寄せていた。それだけに佐藤が太田との直接対決で後れをとったことで、駒大の選手たちには動揺が広がり、「箱根駅伝の青学は強い」という“恐れ”がインプットされてしまった。

 しかも駅伝では21区間、トップを守り続けてきただけに、今年度は一度も他校の背中を見ておらず、首位を明け渡したことによる精神的なダメージもあった。これまでの首尾が上々だった分、既存のイメージが悪戯して、「流れが悪い。青学は強い」という感覚を選手たちが共有してしまったのだ。

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