度重なる大ケガから見事に復帰を遂げた、横浜F・マリノスの宮市亮選手(撮影/工藤隆太郎)
度重なる大ケガから見事に復帰を遂げた、横浜F・マリノスの宮市亮選手(撮影/工藤隆太郎)

 ヴィッセル神戸の優勝で幕を閉じたサッカー・J1の2023年シーズン。このシーズンは、2022年7月の日本代表戦で右膝の前十字靭帯を断裂し、一度は「引退」を決めたものの、シーズン中に見事「復活」を遂げた宮市亮選手(横浜F・マリノス)にとっても、特別なシーズンとなった。宮市選手はなぜ、5度もの大ケガを経験してなお、前を向き続けられたのか。初の自著『それでも前を向く』では、18歳でアーセナルに入団してからの苦しかった日々について明かしている。宮市選手が数々の苦難の果てにたどり着いた「前へ進むための思考法」の一端を、本書より一部を抜粋・加筆して紹介する。

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天才エジルとの強烈な出会い

 2013-2014年、このシーズンのアーセナルも豪華メンバーだった。各国代表ばかりで、サッカー好きなら誰もが知るような世界的なスターがたくさんいた。

 当時を振り返って思い出すのは、僕がフェイエノールトから戻ってきた2011年夏に15歳でアーセナルに加わったセルジュ・ニャブリの姿だ。2022年のワールドカップ・カタール大会でドイツ代表の10番を背負った選手で、現在はドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンで活躍しているが、2013-2014年シーズンはまだアーセナルに所属していた。

 彼は同郷の先輩たち、ルーカス・ポドルスキやメスト・エジル、ペア・メルテザッカーといった当時のドイツ代表に名を連ねる選手たちに囲まれても一切臆することなく、プレーで「俺は絶対に負けていない」という気持ちをいつも表現していた。

 技術的な少しの差は、じつはメンタルが原因であることもある。それくらい、繊細なタッチが必要とされる世界だった。

 ゴルフで精神状態が乱れて、入れて当然の短いパットが入らないことがあるというが、サッカーでも似たようなことがあるように思う。

 少しでも怖いという思いがあると、技術に影響してくる。トラップで、しっかりボールを止められなくなる。そして、止まらなくなると、次にボールを受ける時に、また怖くなる。しかも、すぐ隣ではエジルが圧倒的な技術を披露している。

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「もし、エジルみたいにうまかったら。あんなパスが出せたら、司令塔でも試合に出られる」