「橋渡し役」には知識が必要だと思う人も多いでしょう。でも実は、数式が使えなくても、理系の技術者や研究者たちの説明を100%理解できなくても、そのアイデアを聞いてみようという関心さえ持てれば、橋渡しはできます。アイデアの背後にある、たくさんの数式の存在に思いを馳せる。このアイデアが実現すれば、数式がフル稼働しはじめて、まだ見ぬモノ・コトが生み出される未来を想像する。それだけでわくわくしませんか?

 数式の魅力を知ったあなたは、もしかしたら、社内の文系人材と理系人材の「橋渡し役」になったり、社外のIT企業やフィンテック企業なども巻き込んでアイデアを形にしていく「ひとり」になるかもしれません。“数式読解力+調整力”はビジネスチャンスにつながります。イノベーションが求められる現代にこそ、数学の視点は重要なのです。

 数式を理解するコツは、見た目の複雑さにひるまず、「その数式が表している物事の本質は何なのか」という点に集中することです。数式のささやき、数式がつむぐ物語に耳を傾けてください。クリエイティブな数式の世界への旅は、もう始まっているかもしれません。

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冨島佑允

冨島佑允

●冨島佑允(とみしま・ゆうすけ) 1982年福岡県生まれ。京都大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科修了(素粒子物理学専攻)。MBA in Finance(一橋大学大学院)、CFA協会認定証券アナリスト。大学院時代は欧州原子核研究機構(CERN)で研究員として世界最大の素粒子実験プロジェクトに参加。修了後はメガバンクでクオンツ(金融に関する数理分析の専門職)として各種デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当、ニューヨークのヘッジファンドを経て、2016年より保険会社の運用部門に勤務。2023年より多摩大学大学院客員教授。著書に『日常にひそむ うつくしい数学』(小社)、『数学独習法』(講談社現代新書)、『物理学の野望――「万物の理論」を探し求めて』(光文社新書)などがある。

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