冨島佑允著『東大・京大生が基礎として学ぶ 世界を変えたすごい数式』(朝日新聞出版)
冨島佑允著『東大・京大生が基礎として学ぶ 世界を変えたすごい数式』(朝日新聞出版)

 毎日のニュースを見ていると、現代の創造性は数式が担っていることがとてもよくわかります。

 たとえば、宇宙ロケットの進む方向の計算には、カルマンフィルタやパーティクルフィルタという名前の統計学の数式が応用されています。自動運転車は「ベイズの定理」と呼ばれる数式を使って状況を判断しながら走ります。

 空中を飛び回るドローンが、その姿勢を一定に保つために、どのプロペラをどれだけ回せばよいかという計算には微分積分の数式が使われています。ヒトの心臓の鼓動のテンポや回数は、数学の一分野である「カオス理論」の数式に従っていることがわかっており、こうした法則性に気付けたからこそ人工心臓の研究にもつながっています。

 数式と親しくなることが、創造性への扉を開きます。とは言っても、小難しい数式を自分で解けるようになる必要はありません。重要なのは解き方のテクニックではなく、数式に秘められた物事の本質を見抜く力です。

 数式はそもそも人間の思考を助けるためのツールであり、根本の発想は非常に直感的です。根本の発想さえ理解すれば、数式は怖くありません。本書が数学力ではなく、あえて"数式読解力"をテーマにしているのは、そういった根本の発想に光を当てた説明に意を尽くすためです。

 私は、数学を駆使して金融市場を分析する「クオンツ」という仕事をしています。主な仕事内容は、統計学や人工知能を使って株などに投資を行い、お金を上手に増やしていくことです。

 あるとき、仕事の成果を米国のグループ会社役員に説明する機会があったのですが、想定をはるかに超えるほど突っ込んだ専門的な質問をシャワーのように浴びせかけられ、面食らいました。というのも、役員クラスからそこまで数理的で専門的な質問が来るとは想定していなかったからです(念のため補足すると、その役員は投資の専門家ですが、数式は苦手です)。

 結局、与えられた時間では質疑応答が終了せず、その後もメールや書面でのやり取り、追加のミーティングなどを通じて理解を深めてもらいました。

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