11日のフリーは冒頭でミスがあったものの、大崩れせずに演技をまとめた(写真:新華社/アフロ)

 世界王者・宇野昌磨の今季がスタートした。11月10〜11日に行われた中国杯。結果は銀メダルに終わったが、大きな手ごたえがあった。AERA 2023年11月27日号より。

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 もはや、結果だけでは満足できなくなってきたからだろう。

 宇野昌磨(25=トヨタ自動車)は、ある思いを抱きながら、今シーズンに臨んでいる。

 点数を大きく左右するジャンプ要素と、つなぎの部分の表現力を、いかに両立させるか──。

 昨季は、出場した全ての大会で金メダルに輝いた。グランプリ(GP)ファイナル、全日本選手権、そして日本男子初の連覇を果たした世界選手権……。

 ただ頂点を極めても、自身の演技には満足していなかった。

「ジャンプを跳べたか、跳べなかったか。そんな演技になっていた」

「『もう一回見たい』とは思わないのが正直な感想。どの演技も『ジャンプはいいけど……』という演技ばかりなので」

 自身の演技について葛藤を語っていた。だから、オフシーズンは、いつもと違う過ごし方をして自分のスケートを見つめ直してきた。

 今年の夏場は、アイスショーを舞台に表現力を磨いた。その中でも「一番記憶に残った」というのが、人気アニメを題材にした「ワンピース・オン・アイス」だ。主人公のルフィ役で出演。今まで挑戦してこなかったような表現の場で、こんな新境地を開いたという。

「楽しみ」見いだせるか

「もちろん、ジャンプを日々磨いていっている時もやりがいを感じてはいます。けど、そこだけじゃない。ジャンプが全くなくてもすごいやりがいをもって、楽しく滑っていました」

「終わった後には自分でも感動するようなショーになりました。『試合での自分の演技に、なぜ感動しないんだろう?』って考えた時に、ジャンプだけしか全力を注いでいないからだと」

 かくして絶対王者は、11月のGPシリーズ第4戦・中国杯を今季初戦に、競技会の場へと戻ってきた。

 10日のショートプログラム(SP)を翌日に控えた9日。公式練習を終えた宇野は今の心境を、こう語っていた。

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