「あの夏を取り戻せ」のポスター

「そんな状況で高校の野球部のメンバーと久しぶりにご飯を食べたんです。で、彼女ができたぜ、とか、どんなに楽しい話をしていても最後は甲子園の話になって……『1コ下の代から甲子園あったね、いいね』って話に絶対になってしまうんです。そのとき、思ったんです。《同じような元選手はメチャクチャいっぱいいるだろうな。東東京大会でベスト16のチームでもこんなに思うんだから、地区大会で優勝したチーム、本来甲子園に行けたチームの選手たちは絶対同じようなことを思っているだろうな》と」

 7月中旬、小学校時代にバッテリーを組んでいた大親友の小野沢慶一と会った大武が「もう一回、俺らの代で、各都道府県で予選から、やり直さない?」と、想いをぶつけると……。

「『でも、それ、おかしいよね』と言われたんです。『俺らの代って、各都道府県の独自大会で優勝校が決まってたじゃん。本来、そこが甲子園に行くべきだから、最初からやるのはおかしいよ』と。それがすごく納得できたんですよ。《僕はやり切れなかった。だからこそ、やり切ったコイツらに出てほしい》って」

 SNSアカウントを作った大武は、8月5日からツイッターとインスタで「当時の代表校49校を集めたい。皆様、拡散お願いします」と発信。そして大学の学生と先生に「マジでリツイート頼む」「お願いします」。

「それが一つ。もう一つは、僕の小学校から高校までの野球つながりのリストに『知り合いはいない?』と。全員、同世代なんで『お前の友達にも送ってくんない』と。これだけです。2日後の8月7日に尽誠学園(香川)の橋爪仁が急に電話してきて『俺、マジで悔しくて、やるせなくて。参加させてほしい』と言われたのが一番最初のエントリーでした。野球でつながっているんですよ。僕も12年間、野球をやってたので、いろんなところでつながっているんです」

 大武の“想い”は「あの夏を取り戻せ」全国元高校球児野球大会という大プロジェクトに進化し、今年11月29日には甲子園での入場行進にセレモニー、同30日と12月1日には兵庫県内の球場で交流試合を企画。現在、クラウドファンディングで資金を募っている。

(渡辺勘郎)

※AERA増刊「甲子園2023」から