公園や道端、居合わせた人同士で何気ない会話が始まることの多いアメリカ(画像/筆者提供)
公園や道端、居合わせた人同士で何気ない会話が始まることの多いアメリカ(画像/筆者提供)

 アメリカから義理の妹が遊びに来てくれました。義妹も子育て奮闘中の二児の母。日本の親子ってアメリカと違う? と尋ねてみたら、間髪いれずこんな答えが返ってきました。「日本の親子はびっくりするくらい静かだよね。おとなしい日本人を見ていると、自分が騒々しい野蛮人だって気がしてくるもの」

 とりわけ義妹が驚いたのは、町の一大観光スポットである城のお堀端で、子どもが楽しそうに歌い踊る様子をシーッ!と注意する母親の姿だったといいます。図書館や美術館ならまだしも、場所は大勢の人が行き交う屋外。子どもの陽気な歌声は少なくとも義妹の耳には心地よくそして微笑ましく、ずっと聞いていたいほどだったそうです。それを静かに!と制止するのは厳しすぎるのではないかということでした。

 義妹の話を聞き、アメリカ暮らしから子どもをふたり連れて日本に帰ってきたとき、日本人の私でさえ同じ印象を受けたことを思い出しました。当時4歳と1歳という我が子たちの年齢も一因かもしれませんが、とにかくよくしゃべる子たちに応えて、喉が枯れるくらいしゃべり続ける夫と私。でも周りを見渡すと、そんなにくっちゃべっているのは我が家だけ。珍しく同じようにのべつ話している親子がいるな、と振り向いたら向こうも国際結婚ファミリーだったなんてこともありました。日本の親子はいるかいないかわからないくらいの静寂さで、この差はなんだろうと恥ずかしく感じたものです。

 日本はアメリカより狭くて互いの距離が短いから、とりわけ音に敏感なのでしょうか。確かに渡米直後のある昼下がり、家の中で休んでいたら突如「ぶおおおおん」と轟音が耳をつき、すわ空襲かと慌てて外に飛び出したら清掃業者さんがリーフブローワーなる掃除機で落ち葉を吹き飛ばしているだけだったということがありました。日本だと竹の箒で雅にシャッシャッシャッのところ、アメリカだと戦闘機並みにぶおおおおんかと驚いたものです。しかし、1年も経つと私の耳はリーフブローワーに慣れて聞き流せるほどになりました。音なら日本にも、広告宣伝車、駅のアナウンス、いらっしゃいませえと威勢よく叫ぶ店員さん、饒舌な家電やカーナビなどあふれていますが、そこまで耳につくことはありません。対してアメリカではこれらの音は存在しないといっていいほど珍しく、アメリカ人はいちいち驚いて「日本ってどこに行っても誰かや何かがしゃべってるね」と目を丸くしています。音への耐性は慣れの要素が大きく、日本人がことさら音に神経質だというわけではなさそうです。

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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人の話し声に対する価値観が違う