一汁一菜は「ご飯、味噌汁、漬物」が基本。具だくさんの味噌汁にすれば、おかず(菜)も兼ねるので、漬物はなくてもいい(写真:土井善晴さん提供)
一汁一菜は「ご飯、味噌汁、漬物」が基本。具だくさんの味噌汁にすれば、おかず(菜)も兼ねるので、漬物はなくてもいい(写真:土井善晴さん提供)
料理研究家 土井善晴さん(59)どい・よしはる/1957年、大阪市生まれ。スイス、フランスでフランス料理を学び、大阪「味吉兆」で日本料理を修業。88年から「おかずのクッキング」(テレビ朝日系)レギュラー講師(撮影/写真部・岸本絢)
料理研究家 土井善晴さん(59)
どい・よしはる/1957年、大阪市生まれ。スイス、フランスでフランス料理を学び、大阪「味吉兆」で日本料理を修業。88年から「おかずのクッキング」(テレビ朝日系)レギュラー講師(撮影/写真部・岸本絢)

 日進月歩の家電の進歩で、家事は驚くほど楽になって…いないのはなぜだ! 気が付かぬうちに“メタボ化”した家事は時に苦役だ。家事は本来生きること。私たちの手に、家事を取り戻そう。AERA 2017年2月13日号では、「家事からの解放」を大特集。家事を捨てるにはどうしたら良いのか――。

 整えられた部屋、品数の多い食卓、糊の利いたシャツ。そんな理想が私たちを苦しめる。嫌なら手放したっていい。完璧な家事を捨てよ、幸せになろう。

*  *  *

 ご飯と味噌汁だけ。家庭料理は、その「一汁一菜」で十分だという。本当にいいのか?

「いいんです」

 そう答えるのは、家庭料理の第一人者、土井善晴さん(59)だ。味噌汁のだしはとらなくてもいい。具は好きなものを、という『一汁一菜でよいという提案』(グラフィック社)は発売3カ月で9刷と話題を呼んでいる。

 ワーキングマザーから一人暮らし、子どもの巣立った家庭まで、多くの人が料理を「しんどい」「億劫」だという。本来、料理にはケとハレがあるが、それらがごちゃまぜになっているのが原因だと、土井さんは見る。

「家庭でもレストランのような料理をつくり、まるでグルメ番組のように『おいしい』と言われないといけないという勘違いがある。おいしい、まずいでない。家庭料理は『ふつう』がいいのです」(土井さん)

 家庭料理は家族の心の置き場。だからお祭り騒ぎのような「おいしさ」ではなく、手作りの安心できる「ふつう」が大事なのだ。土井さんがふだん作っている味噌汁を見ると、トマトやきゅうり、ベーコンなどが入っていて、驚くほど自由で手軽だ。具を煮て、味噌を溶くだけ。ご飯を炊いておけば、5分もあれば仕上がる。

「そこでできた時間や気持ちの余裕を大事にしてほしい」(土井さん)

●家庭料理を初期化する

 一汁一菜に何か一品加えたくなったら、それも構わない。家族の顔を思い浮かべながら加える一品に、家族もきっと気づくはず。そこで交わされる“想い”こそが家庭料理の核を成すものだ。

「一汁一菜を始めたら、もっと料理を作りたくなったと言い出す人がいます。作らなくてもいいんですよ、って私は言うんですけれど(笑)。余計なものから解き放たれるからでしょう」

 一汁一菜の提案は「家庭料理の初期化の提案でもある」と土井さんは言う。同様のことは家事全般にも当てはまる。どんなに家事家電やサービスが便利になっても、軽減されない負担感。その「正体」を突き止め、余計な家事を捨てようとする動きがここ数年大きなトレンドとなっている。“捨て家事”を提唱する、大澤和美さん(42)は言う。

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