「著作権を侵害している」という批判も寄せられたことから、エヴァンゲリオン版権元にもNERVアカウントと併せて使用の許可を求めている。

「非営利であり、社会的に意義のある活動ということでOKしました」(エヴァンゲリオンシリーズの著作権を管理するグラウンドワークスの神村靖宏社長)

■速さの秘訣は専用線と独自のプログラミング

 震災以降、より早く、多様な情報をツイートするためにNERVのプログラムは改良が重ねられてきた。

 情報収集は石森さんが経営する会社・ゲヒルンが担う。ゲヒルンは、テレビ局などと同様に気象庁に専用線を敷いており、気象庁が地震速報や気象警報などを発信すると、それをダイレクトに受け取れる。気象庁が発表した情報をゲヒルンが受信し、NERVがツイートするまでにかかる時間は約1秒。テキストは当然自動で生成されるが、情報の種類や規模によってさまざまなパターンがある。例えば巨大地震が起こった場合、受信する情報の第1報で推定震度がわかっても、確実性を期するために「今後の情報に注意してください」などとツイートする。複数ある地震計のうちのひとつだけが作動しているなど、誤作動と思われる情報は排除する仕組みも組み込んだ。

 気象庁の情報以外に、Lアラートなども受信し、ツイートしているが仕組みは同様だ。

「NERVのツイートは信用できるのか、と気にしている方もいるようですが、情報の出どころはテレビの速報などと変わりません。僕たちが取り組んでいるのは、それをいかに早く有用な情報として発信するか、という技術的なチャレンジです」(石森さん)

 各地の震度や台風の進路などを示す画像も、自動で作画して投稿する。暗めの色使いはエヴァンゲリオンの世界観を示すため、だけではなく、カラーバリアフリーを意識したもの。

 石森さん自身が色覚異常の当事者で、自分が見やすいように、という意味もある。

「光に過敏な人でも見やすく、一般の人も色覚異常の人も色を見間違う心配が少なく、気象庁やNHKの配色意図になるべく準拠した色を探し求めました」

 当初は「遊び」で始めたアカウントも、いまやフォロワー数50万人。想像もしていなかったというが、さらに先も見据えている。

「すでに取り組みをはじめていますが、東京オリンピックまでには英語や中国語でも同じように発信できる仕組みをつくりたい。詳細はまだ秘密ですが、もっと早く情報を届けられる方法も考えています」

 もう二度と、災害で大切な人を失いたくない。「逃げて」という石森さんの叫びはこれからも、ツイートに乗って50万人のフォロワーに届けられる。(AERA編集部・川口穣)

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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