「船便は片道8千円が基本ですが、競合他社も増えて最安で往復2千円もある。以前は年配の団体客中心だった客層も、家族連れや個人客も増え、夏には日帰りで海水浴に来られる方もいます。移動手段もレンタカーやタクシーも増え、スマートフォンの翻訳アプリでコミュニケーションする方も多いですね」(対馬観光物産協会上対馬事務所)

 こうした位置関係の対馬は、朝鮮半島有事の在韓邦人約6万人の退避計画の拠点になると想定されているが、具体的なシミュレーションは進んでいない。

「6町が合併した当市には、旧町単位で千人規模収容の体育館があり、一時退避のハコとして想定しています。しかし毛布や寝具、水や食料、衛生用品の備蓄は市民用しか確保しておらず、いきなり5千人を超える避難者が来られても対応は難しい。県を通じて国からまだ何の相談もなく、計画も立てようがない。普段から陸上、海上、航空自衛隊や県振興局と顔の見える付き合いをしているので、ないことがベストですが、いざという時には阿吽(あうん)の呼吸で対応はできると思います」(対馬市総務課)

 一方、有事の際の難民対策はどうあるべきなのか。20年前に活動を始めた脱北者支援団体「NPO法人北朝鮮難民救援基金」(東京都文京区)を設立した加藤博理事長はこう警鐘を鳴らす。

「これまでの北朝鮮難民は、小規模ながら継続的に脱北し続けていますが、有事になれば、はるかに大量の難民が日本に押し寄せる可能性があります」

 昨秋以降は北朝鮮の木造船の漂流・漂着事案が急増。海上保安庁によると、昨年1年間で過去最大の100件余の漂流が日本海沿岸で確認され、救助されて本国に戻された人たちもいる。

 韓国在住の脱北者は3万人を超える。これは、陸路で韓国まで逃れられれば生き延びられることが、口コミで北朝鮮社会に広がった結果だ。同様に今回、木造船で日本に漂着できると北朝鮮の漁民が学んだ意味は小さくない。シリアで難民ビジネスが横行したように、北朝鮮難民を海路で国外へ送り出す斡旋業者が出てこないとは言えない。これまで経験したことのない規模の難民を受け入れる責任が日本に生じる可能性は否めないのだ。

 法務省官僚として名古屋や東京の入国管理局長を歴任、05年に退職後は「一般社団法人移民政策研究所」を立ち上げ、50年間で1千万人の移民を受け入れる日本型移民国家構想を提唱している坂中英徳さんは、さらに踏み込んだ意見だ。

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