採択から今日まで、世界は懸命にゴールズに向けて取り組んできた。しかし達成までの前途には、さまざまな問題が山積している。これからどのように進んでいけばいいのか。一人ひとりに何ができるのか。大学と企業が拓く道とは。
Q1.普段から取り組んでいるSDGsの活動は? Q2.あなたにとって「 質の高い教育」とは?
関西大学
SDGs担当副学長
社会安全学部 教授
高橋智幸さん
A1.少しの気付きと心くばりで自ずとSDGsを意識している。
A2.理論と実践で自ら「考動」し、社会を革新する力を育む教育。
上智大学
学生総務担当副学長
文学部フランス文学科 教授
永井敦子さん
A1.今年は山の保全に募金活動で参加。森のきのこに宇宙を感じる。
A2.学生が教員を介して新しい景色に出合う。
成蹊大学
サステナビリティ教育研究センター所長
副学長 理工学部 教授
藤原 均さん
A1.買い物の際、マイバッグを持参する。
A2.生涯にわたり心に深く刻まれる教えや学び。
流通経済大学
流通情報学部 教授
関 宏幸さん
A1.家庭ではゴミ出し係で、分別等を率先して行っている。
A2.「論理的に考えられる力、そして他者に説明できる力」を培うこと。
株式会社NTTドコモ
経営企画部サステナビリティ推進室
担当部長
生井徳一さん
A1.「カボレコ」※で記録できるエコ行動を実践。
A2.課題解決に向けた行動に結びつく土台づくり。
株式会社バンダイナムコ
ホールディングス
経営企画本部サステナビリティ推進室
マネージャー
平 秀之さん
A1.学生時代から登山が趣味なので、清掃登山を行っている。
A2.課題解決力など、個人のスキルアップにつながる実践的な教育。
※NTTドコモが提供する「カボニューレコード」の略称。自分が利用するサービスや行動で二酸化炭素をどのくらい削減したか、環境貢献度を可視化できるサービス。
木村恵子(AERA編集長) 日本ではSDGsは、もはや誰もが知る言葉となっている感があります。
高橋智幸さん(関西大学) はい。SDGsの認知度は非常に高く、本学の調査でもほぼ全員の学生が理解しています。関連する行事を開催すると、多くの学生が集まります。既にあった社会課題がSDGsと絡めることによって明確になり、認識されてきた段階だと思います。
木村(AERA) 企業ではどうですか。
生井徳一さん(株式会社NTTドコモ) SDGsが採択される前から、企業としてサステナビリティ(持続可能性)の実現のための活動に取り組んできました。当時その活動に関心があるのは株主や投資家、あるいはサステナビリティ事業の関係者ぐらいでした。しかし、今は、多くの人に私たちの活動が理解されやすくなりました。
迫る期限。SDGsの今と、この先、必要な取り組みとは
木村(AERA) 達成期限の2030年を控え、現状と課題をどう考えますか。
藤原 均さん(成蹊大学) 国連の報告によると、全ての目標において達成度は低く、国や地域によって大きく偏っています。エネルギー問題のように政治、経済、国際情勢が複雑に絡み合う場合もあるなど、ゴールによって関わり方や緊急性が違うので、どうバランスよく進めるかが課題です。
平 秀之さん(株式会社バンダイナムコホールディングス) そうですね。国連は30年の達成には非常に厳しい見方をしています。企業の立場で感じる課題は、SDGsが流行になり、アピールの一つとしてビジネス主体の活動になりがちな点です。ESG評価※1を上げることだけに注力してしまうケースも見られます。一方、個人での立場となると、日本人には、1日2.15ドル※2以下での生活を強いられる絶対的貧困や戦争・紛争などは遠い世界の出来事であり、「自分ごと」として捉えにくい傾向があります。
※1 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)へ配慮した考え方。ESG評価は、ESGの取り組みへの評価を数値化したもの。
※2 世界銀行による基準。2023年1月5日時点。
藤原(成蹊) 日本の「自分ごと」といえば、自然災害があります。災害対策において技術開発などを進め、世界でリーダーシップをとれるようになれば、世界に貢献できます。そうしていろいろな国や地域が得意分野を生かし、お互いの課題に共感して、助け合えれば、現状はよくなっていくはずです。日本人の科学技術力向上のためには、初等教育から基礎科学の教育を強化することも必要ではないでしょうか。
木村(AERA) 高校生など若い世代にとっては、問題に対して、どう一歩を踏み出すかは悩ましいです。AERAサポーター高校の高校生へのアンケート※3では、世界規模の問題の大きさや、一人でできることの少なさから、無力感を覚えているという回答も見られました。
※3 「AERAサポーター高校」の生徒と教員を対象にSDGsに関するアンケートを実施。(n=教員11人、生徒615人)
永井敦子さん(上智大学) 世界規模の問題に関しては、日本在住の外国人の方々と交流することからでも、理解につながるのではないでしょうか。最近、本学の留学生に母国について話してほしいと依頼が入ることがあります。先日、モンゴル出身の留学生が高校で講演したところ、大変盛り上がったと聞きました。本学に限らず、多くの大学でも留学生を受け入れていますので、気軽に大学に問い合わせてほしいです。高校生のみなさんのジレンマについても、ぜひ一緒に考えていきたいですね。
関 宏幸さん(流通経済大学) 世界規模の大きな問題への貢献は非常に難しいですが、やはり組織に所属し、仲間を得て、実現できるようになることが多いと思います。大学や企業がその役割を果たすことが理想です。
生井(NTTドコモ) SDGsが採択されたあと、ニューヨークの国連本部で、さまざまな企業のSDGs担当者と意見交換をする機会に恵まれました。私たちは国内が主なサービスエリアで、世界的な課題に対して貢献することがなかなか難しいと話しました。すると、「日本にだって多くの社会課題がある。できる場所でできることをやるといい」とアドバイスをもらいました。以来、私たちが直面する、「自分ごと」化できる課題から解決していこうと考えるようになりました。
高校生への調査では、興味があるSDGsのゴールについて、最も多かったのは16「平和と公正をすべての人に」だが、とくに上位5ゴールは獲得割合の差が小さく、高校生の興味が多岐にわたることがうかがえた。
SDGs活動は学生が主役。多様な人々との協働で
木村(AERA) まずは足元からですね。その上で自分たちにできることとして、大学ではどんな活動に力を入れていますか。
藤原(成蹊) 成蹊学園の小中高大の児童・生徒・学生・教職員が参加する取り組みに「けやき循環プロジェクト」があります。学園のけやき並木は美しく、地域の人にもとても愛されています。「落ち葉は資源」を合言葉に、大学の馬術部で回収した馬糞などと混ぜて堆肥を作り、花壇などに戻す「循環」を行っています。大学の方ではSDGsに関連した科目を履修できる「SDGs副専攻」を設置し、26年には国際共創学部(仮称)※4を立ち上げる予定です。
※4 仮称。設置構想中。
東京都武蔵野市指定文化財(市天然記念物第1号)である構内のけやき並木の落ち葉処理を、資源循環や地域交流の活動へ展開。学園から地域全体のSDGsの意識醸成を目指す。大学では「SDGs副専攻」を設け、「日本列島の歴史と災害」「アートと社会」など多角的なテーマから社会問題への見識を深めていく。
毎年秋、小学生、中高生、大学生、教職員を中心に地域住民も参加し、協力してけやきの落ち葉を集めながら交流を深めている。
●けやき循環プロジェクトのようにSDGsへの関心が低い人にも価値が伝わる象徴的な試みは重要です。 生井(NTTドコモ)
●どんなに良い取り組みでも、考え実行するのは「人」。小中高のみなさんが継続的に取り組める点が素晴らしいと思います。 平(バンダイナムコ)
高橋(関西) 自治体や企業、教育機関などと協力してSDGs達成を促す「SDGsパートナー制度」を21年から始め、現在60を超える団体の登録があります。この制度でうれしいのは、先方から「学生を巻き込んでほしい」と言ってもらえ、教育の実践の場としても成功していることです。25年に開催される大阪・関西万博は実は、SDGs達成への貢献を開催目的としています。本学もSDGsをテーマとした催しを出展し、学生たちが主体的に参加します。30年に向けて議論を深め、ゴールズ達成へのアクセルを踏んでいきたいです。
同大学の取り組みに賛同する企業や自治体等と連携し、大学の人的・知的資源を活用することで、課題解決のスピードアップを目指す。SDGsをテーマとしたさまざまなイベントや取り組みを展開。また、年2回の交流会を開催し、パートナー企業・団体同士をつなぐ場も提供している。
パートナー企業と廃材の使用や伝統工芸の保護などSDGsを意識したインテリア作品を制作。
●産官学での連携のために、このようなパートナー制度は非常に有意義だと感じます。 生井(NTTドコモ)
●大企業でも1社ではできる事に限界が。他業種との連携には1+1が100になる可能性も! 平(バンダイナムコ)
永井(上智) 21年度に主要なキャンパスで電力を再生可能エネルギー100%に、さらに四谷キャンパスおよび目白聖母キャンパスにカーボンニュートラルLNGを採用しました。結果、二酸化炭素の排出を97.4%削減できました。こうした取り組みの軸となる「サステナビリティ推進本部」では、学生に主体的に活動に関わってもらうため、14人の「学生職員」を採用し、学生を巻き込んでのSDGs活動に取り組んでいます。最近、学生たちが声を上げ、学食でご飯を頼む際の「小盛りボタン」を導入して、フードロスを削減する仕組みを作りました。
ダイバーシティに関するプロジェクトや「誰にでも優しいキャンパスづくり」など、同大学が取り組むサステナビリティに関連する活動を統括している。教員・学生を問わず各部署・団体を柔軟に連携させ、キャンパス改善チーム、企画実施チーム、情報発信チームで運営を行う。また、学生職員が広報、情報収集、制度設計に参画し、活躍している。
学生職員が車椅子ユーザーからの助言などをもとに、さまざまな視点から分かりやすい案内表示の制作に取り組んだ。
●大きな組織全体に取り組みを浸透させるには、学生職員のような有志の力が必要です。 生井(NTTドコモ)
●当社でも専門部署の設置は、組織全体の取り組みのスピードや効率を著しく高めました。 平(バンダイナムコ)
関(流通経済) 22年度に「ダイバーシティ共創センター」を設立しました。一人ひとりがのびのびとその個性を発揮できる「誰一人取り残さない」キャンパスを学生・教職員が共に創ることを目指し、多様性の理解促進や男女共同参画など、啓発活動と課題解決への取り組みに力を入れています。具体例としては、イスラム教を信仰する学生のためにお祈りの場所を設けました。また、地域の商店街から余った食材を提供してもらい、地域の子どもたちと献立を考案し調理する「SDGsクッキング活動」などにも参加しています。
学生・教職員が一体となって多様性を尊重し合うキャンパスを目指す機関。障がいのある学生やLGBTQ+の学生、イスラム系学生のキャンパスライフへの支援体制作り、「ダイバーシティウィーク」を通じての多様性の理解促進、共創アクション等に取り組む。キャンパスがある千葉県松戸市や茨城県龍ケ崎市とともに、SDGsに関わるイベント等を開催している。
ダイバーシティウィークでは、1年生を含む全学部のゼミでの議論や専門家の講演などを実施。
●当社もダイバーシティを推進しているので、この取り組みもぜひ参考にしたいと思います。 生井(NTTドコモ)
●地域の活性化や周辺コミュニティとの共生は、企業にとっても非常に重要な課題です。 平(バンダイナムコ)
木村(AERA) 大学でもジェンダーギャップ(男女格差)は課題でしょうか。
関(流通経済) 私が勤め始めた25〜26年前、大学組織は男性社会でした。女性教員は少数ですし、学長、副学長クラスに残念ながら女性は見られませんでした。しかし、現在はSDGsの理念のもと、男女区別なく才能を持った人が一つの目標に向かって、大学組織を作り上げていこうとしています。SDGsの課題は身内の組織内にもあります。
SDGsによって企業と大学が課題を共有する
木村(AERA) 企業では主にどんな取り組みをしていますか。
平(バンダイナムコ) 事業に関係する社会的課題に取り組んでいます。ゴール12「つくる責任 つかう責任」に関しては、プラモデルに使うプラスチックのリサイクルのほか、当社のさまざまな人気キャラクターを活用して、ファンとつながる活動をしています。例えばガンダムが地球を守っているイラスト、パックマンがゴミを食べることで海がきれいになる動画などを公開し、SDGsを啓発します。消費者を巻き込み、意識を高めることで、持続可能な社会の実現につながっていくことを狙いとしています。
生井(NTTドコモ) 当社が最も力をいれて取り組んでいるのが脱炭素への取り組み「カボニュー®※5」です。2030年に自社のカーボンニュートラル※6、2040年にサービス提供に必要な資材の調達や商品の流通・販売などを含めたネットゼロ※7を達成することを目指しています。さらに、お客さま・パートナー企業とともに社会全体の脱炭素に貢献するための取り組みも進めており、一人ひとりの行動変容を促すことで、脱炭素社会に近づくサポートをしたいと考えています。
※5 「カボニュー®」とは、ドコモグループのカーボンニュートラルとネットゼロに向けた取り組みおよび、お客さま・パートナーとともに社会全体の脱炭素を目指す取り組みの総称。
※6 二酸化炭素といった温室効果ガスについて全体的に排出ゼロを目指す試み。
※7 温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとることで“正味ゼロ”の状態を目指す試み。
高橋(関西) カーボンニュートラルに関する相談は本学も多くいただいています。当然、理工系の学部は触媒や蓄電池など直接的な研究を行っていますが、商学部など文系の学部でも、カーボンニュートラルを扱う研究が進められています。文理融合で推進する必要がある課題であることが、企業からの相談でも分かってきました。
木村(AERA) SDGsに取り組む大学と企業の連携は必須ですね。
高橋(関西) 本学の各教員の研究内容を冊子やWEBサイトで公表しています。以前は研究が細分化されすぎていて、一般の方にはわかりづらいものでした。そこで、SDGsのゴールを指標につけたところ、そこに課題を持っている団体からのアプローチが増え、協働に至っています。
永井(上智) 本学の研究所のうち、「人間の安全保障研究所」や「地球環境研究所」等が行う研究内容にSDGsのゴールを示しています。国内外の大学や研究所、地方公共団体とのつながりが生まれ、課題を共有しやすくなりました。
藤原(成蹊) 本学では、南極観測を行っている「国立極地研究所」や東京都武蔵野市などと協定を結んでいます。冒頭の高校生たちの声への回答にもなりますが、世界規模の問題に取り組んでいくためには、国内外を問わず、自分が関心のある分野の団体や機関と関係を結び、そこをハブとして、さらに多様なコネクションを作ることも大切だと思います。
木村(AERA) 人と人のつながりが問題解決への道となるのですね。
関(流通経済) 本学では全学生数の7%強を留学生が占めています。これまでも多国籍の留学生への配慮はありましたが、SDGsに取り組んで以降、大学としてきちんと考えていこうという流れになりました。宗教など、個人の問題として片付けられがちなことや、人種間のさまざまな問題に関しても、公に話すようになりました。SDGsの一環として、平等性や公正性に配慮した施設などを作るためには議論が必要だからです。
高橋(関西) 学生同士の横のつながりも顕著です。法政大学とSDGsのアクションプランコンテストを共催しています。最初は、同じ大学の学生同士でチームを組んでいたのが、途中から両大学の学生が交じったチームが生まれることがよくあります。海外の大学とも、多くの学生が抵抗なくつながるようになっていますね。コロナ禍によって、遠隔コミュニケーションが当然になり、同じ価値観や問題意識、課題を解決したいという気持ちがあれば、距離は問題なく連携できる世代だと思います。大学は、こうしたつながりを作る場であることを高校生のみなさんにも知ってほしいですね。
SDGsは就活の基準となる? 社会が求める人材とは
木村(AERA) 学生時代にSDGs活動に力を入れる学生が多いなか、就職先選びの新たな基準として企業のSDGsへの取り組みは重視されているでしょうか。
永井(上智) キャリアセンターで行った企業選びの指標についてのアンケートによると、優先順位としてはそれほど高くはありませんでした。しかし、SDGsに取り組む企業で働くことが、結果的にはSDGsの達成につながると考え、自分の専門がその企業でどう生かせるのかを検討している学生は多いとみます。
藤原(成蹊) 私もキャリアの担当者に聞いたところ、学生たちはワーク・ライフ・バランスを重視する傾向があり、ゴール8の「働きがい」は企業選びの大きな指標になっているとのことです。SDGsに意識の高い学生には、「今後はDXだけでなく、GX※8が進んでいる企業は世界から信頼される時代。そうした企業に入社し、環境負荷の軽減と経済成長の両立に貢献できる人材になってほしい」と、アドバイスすることもあります。
※8 DX(Digital Transformation)はIT技術の浸透による変革、GX(Green Transformation)は化石燃料からクリーンエネルギーに転換することでの変革を指す。
関(流通経済) 今の学生はインターンシップが当たり前になっています。実際に自分の目で職場環境を見て、働いている人と同じ目線で、自分がその職場で何が出来るかを考える学生が多いです。その中で、SDGsの取り組みも、指標の一つになっていると感じています。
木村(AERA) 企業ではSDGs達成のために活躍できる人材をどう考えていますか。
生井(NTTドコモ) まず大切なのは想いと志があることです。そして、やはり企業としては、社会貢献と利益のバランスを重視していますので、社会課題とビジネスを結びつけるアイデアがあるかどうか。SDGs達成期限の30年、そしてその先は、今の大学生世代が中心の時代になるので、学生時代に、世の中にどんな社会課題があるかを理解し、社会に出てビジネスを学び、その二つを結びつけられる人材になってほしいですね。
平(バンダイナムコ) その上で多角的視点と調整力、コミュニケーション力が大事だと思います。例えば、マイクロプラスチック問題※9から、社会ではプラスチックの廃止が叫ばれています。その半面、プラスチックはリサイクルが容易で安価な優秀な素材であり、問題の元はそれらが適切に処理されないことだと考えます。SDGsを追求する上では、プラスチックを使用しても海洋に流出させない仕組み作りや、使用感が変わらない新たな素材の考案など、SDGs後の主役となる大学生のみなさんに、あらゆる視点からのさまざまな方法でのトライを期待します。
※9 マイクロプラスチック(非常に細かいプラスチック)やプラスチック製品のゴミが海洋生物の生態系に悪影響を与えている問題。
2025年3月に卒業(修了)予定の大学生・大学院生へ向けた企業の取り組みに対しての調査では、「住み続けられるまちづくりを」「ジェンダー平等を実現しよう」「すべての人に健康と福祉を」の順で、より好感を持つとの結果だった。
木村(AERA) 大学ではSDGs達成のために、学生にはどのような力をつけてほしいですか。
高橋(関西) 企業のお二人の話から、私たちの教育方針は間違っていないと確信しました。特に多様性はきれいごとではなく、本当の強みだということを知ってもらいたい。例えば、起業家を育てる授業でのグループワークでは、多様な学生が集まったチームほど初めはもめたり、ぶつかり合ってしまうんです。しかし、そこを乗り越えると、いろんなアイデアが出て、解決方法が導き出されます。SDGsは大学にとっていい教材でもあります。
関(流通経済) 私も大学生のうちに多様性の本当の大切さに気が付いてほしいと考えます。幸い、近年は留学生も増え、例えば私の所属する流通情報学部はアジア圏からの留学生が多いです。さまざまな価値観を認め、理解し、共通の目的のために協力できる人間関係を築いてほしいです。さらに大切なのは、問題発見の力と考え抜く力です。問題が発見できれば、それに対して論理的な思考で解決していく道筋を立てられると思います。本学は流通・物流の専門人材を育てる大学ですので、その高い知識力、実行力を育成することが目標です。学生たちには大学で学ぶ中で科学的視点とビジネス的視点のバランス感覚を培ってほしいです。
藤原(成蹊) 地球温暖化対策やエネルギー問題は、さまざまな問題が複雑に絡み合っています。地球環境や政治、経済、歴史など多岐にわたる角度からの理解と、専門性を求められる場面もあります。学生時代は、その土台になる確かな学力、専門的な知識を身につけ、その道のプロを目指してほしいと思っています。そして自分に足りないところを補うため、他者と協働できるコミュニケーション力も必要です。サッカーの試合を見ても、いいチームは、選手みんなが助け合いながらも、一人ひとりが高い能力と個性を発揮しています。
永井(上智) まず、思考力だと考えます。これには、自分が見える範囲のことだけで完結せず、自分が見えないところに何かあるかもしれないという想像力も含まれています。次は情報をどう収集し分析して使うかのスキル。本学では学部問わず「データサイエンス概論」を必修科目としており、大学生の欠かせない資質と捉えています。最後は共感力です。相手が何に困り、何を求めているのか、それに対して自分に何ができるのかを聞き取って理解して形にできる力です。
30年以降もSDGsを社会全体の大きなうねりに
木村(AERA) この先、社会におけるSDGsはどのようになっていくでしょうか。
藤原(成蹊) 普遍的な価値となって、当たり前の行動規範になると期待されます。市場の製品がどのようなポリシーと製造過程のもと作られているのかが、より重要になるでしょう。また、社会課題解決のために、宇宙やICT、再生可能エネルギーなどの新しい技術が実装されていくはずです。かなり希望的な見方ですが、SDGsを追求することで、いい世界になると信じています。
平(バンダイナムコ) そうですね。消費者もだいぶ変化しています。私たちも卵殻や茶殻を使ったプラモデルを販売していますが、従来のように石油由来ではなく、お米でできたものなど環境に配慮した玩具を子供に与えたいという親も増えています。
関(流通経済) 以前は、スーパーマーケットで食材を買う際は、最も新しい、もしくは最も消費期限が長い物を選ぶため、棚の奥から取り出すこともありました。しかし、今は考えるまでもなく手前の商品から取るようになりました。SDGsが行動のベースになってきているのかなと思います。30年でSDGsが終わるのではなく、共通の価値観になって、ずっと未来へつながっていくと期待しています。
生井(NTTドコモ) たとえ今のSDGsが達成されたとしても、社会課題は無くなることはないでしょう。しかし、このSDGsに取り組む精神が根付いていれば、その先もみんなで協力して取り組んだり、もっと技術を磨いたりしようという世界に変化していくのではないでしょうか。
平(バンダイナムコ) そうですね。SDGsで掲げられている目標は、過去に積み重ねてきた問題を解決するためのものです。未来はまた新しい問題が出てくるでしょう。高校生のみなさんには、今の問題をしっかりと見て、将来それがどういう結果を生むのかを考察していただきたいです。
木村(AERA) 2030年の後も重要ですね。
高橋(関西) 私の専門の災害分野には「災害文化」という言葉があります。災害に対する備えが生活の中に根差すとすごく強い。防災といっても、一時的な訓練だけでなく、文化に落とし込めば、防災力が上がるのです。SDGsも同じことが言えます。SDGs策定時は旗振り役ではなかった日本ですが、その分ポストSDGsの議論では積極的に発信できるのではないでしょうか。
永井(上智) 小中高、大学とSDGsを学びながら育ってきた人々が社会に出ていきますので、いよいよ実装の時代に入ります。近年の世界情勢の悪化は、ゴールズの達成に多くの課題を突きつけています。気候変動が大規模な自然災害を生み、それによって食糧問題が起こっています。ロシアのウクライナ軍事侵攻では、日本もエネルギー価格や物価の高騰といった影響を受けています。こうした、いくつもの難題を一気に解決することはできませんが、SDGsの17のゴールは、散発的なように見えて、実は相互に関わり合っています。大学としては、さまざまな視点、スキルを備えたSDGs達成に貢献できる人材を育てるため、引き続き教育・研究に力を入れていきます。
大学でも企業でもSDGsの取り組みがより具体化しています。その中でのキーワードが「自分ごと」化。学生は自分たちの問題として主体的に関わっています。SDGsの概念が自身の働き方や生き方に直結するこの世代が、SDGsゴール後の世界を作る人材となることを実感しました。