「現場を見て何かが変わったのかも。80歳になったし、いい経験と度胸を決めた」

 81歳にして24年ぶりのセックス。夫以外の男性を受け入れるのは初めてだった。

「それがちゃんと濡れたのよ! 夫に35年間教育されていたからかしら(笑)。体が覚えていたのかもね」

 小笠原さんには娘2人と、息子1人がいるが、出演は「関係ない」と言い切る。

「娘は嫁いで別の家に入っているから言う必要がない。息子は知っているけど、『俺は興味ない。若くて元気でいられるなら十分だから、好きにやってくれ』って」

 出演していることは周囲にも広まったが、小笠原さんは意に介していない。

「AV出演と、普段の私は全く別の世界の話。何かを言われても、私は一切受け付けないと言い返しているから、誰も何も言わない」

 訳がわからないままに飛び込んだAVの世界だったが、息子や孫世代である監督やスタッフなどの制作陣と一緒に作品を作るのが面白いと感じるようになった。

「自分が出た作品なんて見たくない!と思ってたけど、何本か出るうちに勉強しようと思ってデビュー作を見てみたの。そしたら相手役の男優さんとお風呂に入るシーンで、いきなりアソコを握っていて、『もっと丁寧に全身を触ってあげればよかった』って反省したわ」

 それからは男優への触れ方や自分の感じ方など、人に見られることを意識するようになったという。演技についても、役になり切って演じる面白さに目覚めた。

「小笠原さんは頭の回転が速くてよくしゃべるので、監督の信頼も厚く、ほぼアドリブ。それでもちゃんとこなせるんだからすごい。逸材です!」(川邊さん)

 作品で着ている洋服は全て自前。作品の内容に合わせて自らスタイリングし、メイクも変えている。撮影当日は愛車に衣装とスタッフのために作った唐揚げやカレーなどをのせ、現場へと向かう。

「みんな喜んで食べてくれるの。車の運転ができる限りは出演し続けたいわね」

 背中が丸くて姿勢が悪いと、作品でも見栄えがしないことに気づき、常に姿勢をよくすることを意識。ストレッチも毎日必ず行う。

「洗面台に手をついて後ろに反り返ったり、前屈運動をしたりしています。開脚だってできるのよ」

 小笠原さんは、84歳という年齢がにわかに信じがたいほど滑舌がよく、とにかくテンポよくしゃべる。お酒とたばこが大好きで、年に1回、「ルビー」の忘年会で朝まで飲み明かすことが楽しみという。

「元気の秘訣をよく聞かれるけど、若い人との交流があり、彼らといっぱい話をしているからだと思う。年寄り同士で『ここが痛い』とか『こんな薬を飲んでる』なんて言ってちゃだめ」

 夫と過ごした結婚生活が第一の人生、スナックのママ時代が第二の人生、そしてAV女優になってからが第三の人生だという小笠原さん。生涯現役で走り抜ける姿は潔く、格好いい。(ライター・吉川明子)

週刊朝日  2020年1月17日号