国交省OBで河川行政に詳しい宮本博司さんはこう指摘する。

「一般的にダムに水害を防ぐ効果はありません。緊急放流する事態になれば、むしろ水害のリスクは高まります。ダムよりも、堤防の補強を優先するべきです」

 今本博健・京都大名誉教授(河川工学)もダム建設を優先し、堤防強化を後回しにしてきたツケがまわってきたと指摘する。

「住民の身近なところにある堤防を強化してから、必要があればダムを造るべきでした。政府は2015年の鬼怒川の堤防決壊を受けて、強化に取り組み始めたが十分ではない。各自治体でも予算が十分に確保できず、細々としか取り組めていないのが現状です」

 大孝・新潟大学名誉教授(河川工学)もこう訴える。

「ダムの欠点は今回たくさん分かったと思います。計画を超える降雨があったら緊急放流をしなくてはならないので、結局、役に立たない。地球温暖化ですごい雨が降ってくる時代はダム建設をやめるべきなのですが、国の頭の中はなかなか切り替わりません」

 大熊氏は、行政は土木技術の向上に対応出来ていないとも指摘する。かつて、河川工学では「堤防から越流すれば破堤する」とされてきた。しかし、土木技術の飛躍的な向上によって、越流しても簡単には破堤しないように強化することが可能となり、河道の改修事業も安価にできるようになった。堤防の強化方法はいろいろあるが、「地中連続壁」という工法も有効だという。

「堤防の天端からスクリュー式の穴掘り機でセメントを入れて固め、地中に連続的な壁を作る工法です。この工法によって堤防は固められ、簡単には壊れなくなります。川の水が堤防に浸透していくことを透水係数といいますが、それがかなり抑えられ、越流しても堤防がぶよぶよしない。決壊さえしなければ、死者を出すような大被害は避けられるはずです」

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「ダム依存体質」から脱却できない国