【豚】妊娠した母豚を身動きが取れない檻に拘束して出産させる「妊娠ストール飼育」でなく、妊娠ストールフリーにする。

 アニマルライツセンター代表理事の岡田千尋さんが解説する。

「鶏は一日の大半を餌を探して地面をつつきながら歩き回ります。晴れの日に羽を広げて日光浴をしたり、砂浴びをしたりすることで寄生虫を落とすのです。ケージ飼育だとそれができないため、毎月殺虫剤を体中に浴びせられます。豚も、一日中仲間と一緒に歩き回る活発な動物です。にもかかわらず、母豚は妊娠するたび、妊娠期間の115日間拘束されます。骨と筋力が低下して病気にかかりやすく、柵をかみ続けるなどの異常行動も出ます」

 抗議したメダリストたちは小池百合子都知事との面会も求めたが、かなわなかった。大会組織委などは11月2日、「調達基準が改善される見込みは低い」との通達を出した。通達を受け取った岡田さんが続ける。

「調達基準を改善できないなら、せめてケージフリーの卵と妊娠ストールフリーの豚肉の採用割合目標を提示してほしいとお願いしましたが、それもかないませんでした。今後も働きかけを続けますが、12年ロンドン、16年リオとつながったアニマルウェルフェアのバトンを、東京で落とす恐れが高そうです」

 ロンドン五輪では、卵は放牧卵のみが使用され、ケージ飼育された鶏の卵はおろか、平飼い卵も使用禁止だった。豚肉については、英国はすでに妊娠ストール飼育が法的に禁止されていたため、妊娠ストールフリーの肉が使用された。

 リオ五輪では、卵は放牧卵と平飼い卵の両方がOKだったが、地鶏が産んだもの、かつ有機の餌で育ったものであること、という条件つきだった。豚肉の基準は設けられなかったが、食材を調達する大手食肉関連企業が大会の開催前までに、豚の妊娠ストール飼育の自主的廃止を宣言。妊娠ストールフリーの豚肉に切り替える努力が目立ったという。

「東京五輪では、今のところ、妊娠ストールフリーの豚肉の使用を宣言する大手企業は現れていません」(岡田さん)

 なぜ、東京五輪では対応できないのか。背景には、日本の畜産業が工場的畜産システムに大幅に依存しているという問題がある。日本獣医生命科学大学名誉教授の松木洋一さんはこう指摘する。

「欧米などと違い、日本はあまり畜産物を輸出しないため、外圧がかからず、家畜の飼育法まで問われません。そのため、無自覚にも、工場型畜産システムのまま済まされてしまうのでしょう」

 松木さんによると、日本の畜産技術は、もともと欧米から導入された。だが、導入元は1986年に英国でBSE(通称・狂牛病)が確認されたのを機に、アニマルウェルフェア型畜産システムに転換している。

「食品リスク回避が急務の課題になっただけでなく、英国には200年以上の動物愛護運動の歴史があることも、大きな転換点になった要因でしょう」(松木さん)

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