今年もあと2カ月足らず、職場や取引先の忘年会の日程調整をする人も多いはず。かつて宴会と言えば、だれからともなく「2次会、カラオケへ」と声が出たもの。そんな“カラオケ野郎”を、最近すっかり見かけない。一体、どこへ行ってしまったのか。
カラオケ界で語り継がれる輝かしい出来事がある。
文部省(現文部科学省)が1993年度の白書で、国民の参加率が最も高い文化活動として、カラオケを紹介したのだ。複数回答の調査で約43%と、「茶道・生け花・園芸・囲碁・将棋等」(約32%)、「絵画・彫刻・書道・写真」(約24%)を大きく引き離す結果。国民的な娯楽として、政府に認知された。
大学生のコンパ、職場の歓送迎会、地域や親類の新年会……。老いも若きもカラオケに興じた時代。歌が苦手な人も、上司や同僚に誘われると断れない。“歌わずんば、仲間にあらず”。そんな雰囲気を漂わす人さえいた。
カラオケ白書2017によると、95年に5850万人いたカラオケ参加人口は、16年に4720万人。カラオケボックスも約20年間で4割近く減った。国民的な文化活動の愛好者は、なぜ大きく減っていったのか。
マーケティングコンサルタントの西川りゅうじん氏は、こう指摘する。
「カラオケは以前、ボウリングやディスコなどとともに、2次会の定番でした。00年ごろまでは、上司と部下で一緒に行くことも多かったでしょう。終身雇用・年功序列が当たり前の時代、会社の部や課は一つの家族のようでした。今は帰属意識が薄れ、『上司に誘われたら行かないと』とはなりません。上司とカラオケというと、『え?』みたいな感じ。お酒を飲まない若い世代が増えたり、2次会を控える風潮もあります。無理強いすると、パワハラになってしまいますしね」
過去20年で、職場環境が大きく変わった。00年代初めのITバブル崩壊、08年のリーマン・ショックなど景気低迷が続き、リストラの嵐が吹き荒れた。部下は愛社精神を失い、上司は部下のパワハラ・セクハラの訴えにおびえる。
経費節減でタクシーを使えず、帰りは終電で。飲み会は1次会で切り上げ、帰宅して家族との団らんか自己研鑽。そんな若手・中堅社員が増えた。近年は景気が好転したが、かつての職場環境にはもう戻りそうもない。