株価は上がったが景気回復を実感できない人も多い=東京・兜町の東京証券取引所、多田敏男撮影
株価は上がったが景気回復を実感できない人も多い=東京・兜町の東京証券取引所、多田敏男撮影
経常利益は10兆円も増えたのに人件費は横ばいのままだ(週刊朝日 2017年11月3日号より)
経常利益は10兆円も増えたのに人件費は横ばいのままだ(週刊朝日 2017年11月3日号より)
アベノミクスで株価はバブル期以来の高値に上昇しているが…(週刊朝日 2017年11月3日号より)
アベノミクスで株価はバブル期以来の高値に上昇しているが…(週刊朝日 2017年11月3日号より)

 衆院選で与党が優勢に戦いを進めた背景にはアベノミクスがある。与党側は雇用の改善といった成果を強調し、有権者から一定の支持を得た。安倍首相は自身の経済政策は正しかったとして、「再加速」しようとしている。だが、成果は“まやかし”だと指摘する専門家は多い。広がる格差、増えない家計所得……。その“後始末”はこれから始まる。

【経常利益は10兆円も増えたのに人件費は横ばいのまま】

「アベノミクスの『3本の矢』を放つことで日本経済の停滞を打破し、マイナスからプラス成長へと大きく転換することができました」

 安倍首相は、衆院解散を表明した9月25日の会見でこう発言。数値を挙げて、実績をアピールした。

 国内総生産(GDP)は11年ぶりに6四半期連続でプラス成長を続けている。雇用者数は200万人増加し、正社員の有効求人倍率は1倍を超えた。大学新卒者の就職率は過去最高を更新している。

 確かにアベノミクスにはそれなりの効果はあった。大幅な金融緩和や積極的な財政支出、規制緩和などによる成長戦略という「3本の矢」は、不況時にやるべき経済政策で、何も目新しいものではない。やるべきことをやれば、ある程度効果が出てくるのは当然だ。

 問題は、効果があったとしても負の側面は必ずあるのに、それを政権が直視していないことだ。例えば株価の上昇は、経済全体で見ればプラスの面が多い。だが、株式などに積極的に投資している世帯は2~3割程度。大半の人にとって、株価上昇の恩恵は直接的には感じられない。株価が上がれば上がるほど、株式を持つ人と持たざる人との資産格差は広がっていく。

 安倍首相の選挙中の主張では、こうした負の側面に触れず、「アベノミクスの加速で所得が向上する」といったバラ色の未来ばかり訴えているように見える。

 経済評論家の斎藤満氏はこう批判する。

「アベノミクスによって潤っているのは企業だけ。企業の業績が良くなれば社員の給料も上がり、所得や消費に回すお金も増えていくと主張する『トリクルダウン』なんてまやかしです」

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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