そうしたらディレクターが、雑誌によくある「きみはどっち派?」っていうあれも使いましょうと。当時は「~系」という言い回しはありませんでした。それで「六本木純情派」という曲が生まれました。

 これまで作詞をしていて思うのですが、唸るようにしてできた詞というのはあんまりヒットしない気がします。すんなり書けたほうがヒットするものなのです。チェッカーズの大ヒット曲「涙のリクエスト」を僕は1時間45分で書きました。彼らに二つ詞を書いて、別のほうはアイデアが気に入って4時間かけたけど没。普通は3時間ぐらいかかるので、しばらく秘密にしていました。手を抜いたと思われるのが嫌でしたから。

 しかし、これをある日、作曲した芹澤氏に言ったら、あんまり驚いてくれなかったんですよ。「あれ俺15分だから」と。ベッドの上で僕の詞を読んでいたら、メロディが最初の音から、最後のフレーズまで一気に浮かんできたそうです。冗談好きの方ですから真偽のほどは分かりませんが。朝、起き抜けに作ったのは事実のようです。「涙のリクエスト」の場合、詞が先にできて、曲があとについたわけですが、詞が先の曲のほうが生き残る確率が割と高いと思います。

 郷ひろみの「2億4千万の瞳」もそうでした。最初この曲の詞を書いたとき、僕はすごく作品的にいいものができたと思いました。旧国鉄のキャンペーンソングだったので、日本の伝統的な詩歌に倣い、かつ人称代名詞を使わないという課題を自分に課して、三好達治になったつもりで書いたんですね。曲がついてきたら「億千万! 億千万!」というコーラスで始まるんでびっくりしました。こんなんなっちゃったんだと。でもこれは浅はかな考えでした。あのコーラスがあったからこそ売れたわけです。

 今のアイドルは昔と比べて距離が非常に近くなりました。善し悪しは関係なくそういう時代になっただけです。80年代のアイドルは、もっと手の届かない存在でした。それが今ではお嫁さんにできるかもしれないみたいな幻想があるわけですよね。CDに握手券とやらが付いているアイドルもいますが、それまでは「禁じ手」とされていたと思います。このCDの売れない時代に、売ってやろうじゃないかという決死の想いが、今のアイドルブームを支えているのだと思います。

 それでも、80年代のアイドルブームのほうが華やかだったと感じる人は多いと思います。それは、いつまでも心から消えないヒット曲が多かったからなんですね。あの時代、詞の一つ一つが、キャッチコピーとなり、アイドルの「神話」を作り上げていきました。言うなれば、80年代のアイドルブームはコピーが生み出した文化ということなのでしょう。(一部敬称略・談)

週刊朝日 2016年7月15日号