作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。辞職に追い込まれた舛添要一氏に関する報道に、最終的には辟易していたという。

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 結局、舛添さんが辞めるまでメディアは力を弱めなかったなぁ……と、いまちょうど舛添さん辞任のニュースを見ている。

 舛添さんの出張費に問題があると第一報が出たのは3月。そりゃあ、私は怒った。海外に行く時なんて、ちまちまローミング機能をオフにして、通信にも通話にも高額料金がかからないようにするのが常識だろう! ケータイ通話料約250万円ってどういうことだよっ! 一緒に行った役人もどうかしてるよ!と怒りましたよ。とはいえ、ここ1カ月、連日のようにトップニュースが舛添さんというのには、さすがに辟易だ。

 人々の怒りの火に油を注ぐ方法で、これまで何人、私たちは政治家を入れ替えてきただろう。こんなことの繰り返しを、いつまで続ければいいんだろう。今回の報道のあり方は、政治家のお金の問題以上に、メディアの暴力を久々に突きつけられたように思う。

 先日、意思に反してアダルトビデオに出演させられた女性たちを救済する市民団体の方の講演を聴いた。街中で声をかけられ、あまりにしつこい勧誘に「少しだけ」と話を聞く姿勢を見せると、それからはまるで一本のレールに乗せられるようにAVに出演することが決められていく。多くの女性はAVを観る習慣を持たないため、自分が関わる世界がどのような産業で、どのように自分の姿が流通され消費されていくのかを、リアリティーを持って考えることができない。後になって「やっぱり出たくない」「私の作品はもう売らないで」と言っても、「あなたが自分で決めたこと」「違約金が発生する」と言われると逃げ場がなくなる。……と、こういった厳しい現実が語られ、さぁ今後、この問題をどう考えていけばいいのだ……そんなことを考えさせられる講演だったのだけど、最後の質疑応答の時、その場にいた新聞記者が、市民団体の方にこう質問したことが印象に残った。

 
「今後、どう世論喚起していこうとお考えですか?」

 おっとそれは、あなたの仕事なのではないか、とその場にいた人は思ったのではないか。というか私は思った。今、この時代、何が起きているのか、何が問題なのかを、記者ならば書いてほしい。最も声を塞がれている人たちの声を書き、世論を喚起してほしいと私は思う。ちなみに市民団体の方の答えは、

「私たちは日々の活動に本当に忙しいので、メディア対策まで手が回らないのです」

 というものだった。

 メディアの人も、萎縮し自粛してしまっているのかもしれない。わかりやすい「現象」が起きていなければ、書けないと思うのかもしれない。それほど、書きたいことが書けない状況なのかもしれない。舛添さん叩きは、安倍政権になってから、報道の自由度ランキング(NGO「国境なき記者団」による調査)がどんどん下がっている今を映す鏡だった。

 庶民のガス抜きというより、メディアの人たちのガス抜きだった。

週刊朝日  2016年7月1日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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