ア:私はどんな環境の中でもやっていける人間に育てたかった。だからいろんなものを見せ、聞かせ、触らせて、人に会わせた。あとは「失敗を恐れずに、やりたいことにどんどん挑戦しなさい」とよく言ってきましたね。失敗は悪いことではない。失敗を恐れて動かないのがいちばんよくない、と。自分のアイデンティティーを確認して、夢を見られる子に育てたかったのです。結果的に息子たちは、出る杭になることを怖がらずに、わりと大胆に行動できる人間になりました。

柳:ともすると親は先回りして子どもの進む道を平坦にしちゃう。そうすると、平坦な道は走れても、でこぼこ道の走り方がわからなくなってしまう。

ア:母親は子どもに一生懸命やってあげるのが自分の幸せでもありますからね(笑)。スタンフォード大は子どもを大人として扱うから、学校からは一切連絡が来ない。どんな成績をとっているのかもわからない。そこは徹底しています。

柳:私は子どもが18歳になったら親元から出すことがいいと思っています。海外でなくても、国内でもいい。家庭は自分の文化そのものだから、外に出ることがグローバル化の第一歩になる。もう一つ大事なのは、経済感覚の中で自己の達成感、自信をつくることです。今の若者たちは子どものころから豊かな生活をしているので、経済的な上昇実感が得にくい。だったら一度、生活レベルを落としてみるといい。例えば地方から東京の大学に出てきた学生は、生活水準が落ちる。都会の子どももそういう経験をするのが大事でしょうね。

週刊朝日 2016年3月25日号より抜粋