「でも、31歳で出産して、人は支え合わないと存在できないことを、息子に教えてもらったんです。想像力を持って、心を柔軟に保てれば、大概のことは耐えられるってことを。以来、人とちゃんと深く関わっていこうと思えるようになりました」

 そうやって大人としての優しさを身につけながらも、“自分を生きる”という点で心は活火山のまま、今もマグマは湧き上がっている。

「誰も見たことのない50代になりたいんです。世間が抱くイメージやレッテルを、いつも突き破りたいと思っている。そういう点では、とても野心があります。じゃあどうするかって訊かれても、行き当たりばったりなんですが(笑)。理想は、デイパックひとつ持って、どこにでも行ける人間。鞄ひとつで自在に居場所を変えられる人間でありたい。小さい頃、父の事業が失敗して、住んでいた家が突然なくなったり、環境が激変したりする中で育ってきたので、モノに対しての執着が極端に薄いみたいです。ただ、家族を含め、人にはけっこう執着しますけど(笑)」

 2012年に上演され、大きな反響のあった舞台「パーマ屋スミレ」が再演される。劇作家で演出家の鄭義信(チョンウィシン)さんが昭和の庶民の歴史を描いた3部作の第3弾。再演嫌いの南さんが、「公演が終わってすぐ、“またやらなきゃ”“やりたい”という気持ちになった初めての作品」だそう。

「舞台には、毎回始まりと終わりがあります。積み木遊びみたいなもので、同じ道具を使っていても、毎回積み上げ方が違う。居合わせた者同士の、一期一会の時間が好きですね」

週刊朝日 2016年3月4日号