作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、議員辞職を表明した宮崎謙介議員について。

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 「政治生命をかけて育休を取る」と言っていた宮崎謙介議員の不倫が報道された。簡単に「命かける」とか言っちゃう男の人って、やっぱり信用できないですね。さっそく「ゲス不倫」と、絶妙な命名されちゃって、各方面から怒りの声があがってる。そりゃそうよね、育休運動していた人には迷惑だし、この件に関して彼を応援していた人は少なくないし。

 ……でも、どこかで、「やっぱりね」と思ってしまったのは、私だけでしょうか。

 宮崎議員が「イクメン議員」として報道された頃、彼のブログなどを読んだことがある。今日は誰と握手しました~、といった内容が中心のブログなのだけど、例えば育休を先輩議員に反対された時など、彼はこう決意を表明する。

「私は自分の信念を通し日本の新時代を切り開くことを固く決意しました」

 ま、いいんだけどね……なんか大げさなんだよね。一方、例えば去年6月、憲法審査会で自民党推薦の参考人が安保法案を違憲だと答えたことについては、「(憲法審査会を)政争の具に使わないでいただきたいというのが私の率直な感想です」と、なんとも軽い率直なご感想で、驚いちゃうんですよね。

 普通のことを大げさに、危険なことを軽々しく言う政治家、信用できないです。「ゲス不倫」の教訓は、たとえ「言っていることが正しく」聞こえても、言葉の軽い政治家は警戒すべき、ということではないかと、肝に銘じたいと思います。

 
 もちろん、私は国会議員の育児休暇は、男女関わらず、取れる方向にいってほしいと思う。だいたい、これまで育休どころか、産休を取った議員が、たったの10人しかいない。

 1950年に園田天光さんが現職の国会議員として初めて出産した時は、360度あらゆる方向から叩かれたという。以来50年間、2000年に橋本聖子さんが産休を取るまで、現職の議員は誰も産まなかった。「産めなかった」のだと思う。「個」を捨て「公」に生きろ! という抑圧の激しさ、出産をする女に向ける眼差しの厳しさに、議員になる女たちは「男」のように「個」を捨て働いてきた。

 私たちを代表する人の職場が、そんな所だったのだ。女が排除され、組織の論理が優先され、「個」の声は簡単に消されてしまう所。その積み重ねが、今の日本の政治状況なのだと思う。

 宮崎議員も賛同する自民党の憲法草案では、憲法13条「すべて国民は、個人として尊重される」が、「全て国民は、人として尊重される」と修正されている。「個」として尊重されなくなるのが自民党の目指す日本だ。さらに憲法草案24条には「家族は、互いに助け合わなければならない」ことが明記されている。

 出産のため入院している妻のいない自宅に、恋人を招く。家族で助け合ってないし、妻のことを人として尊重してない感じで、宮崎議員、自民党草案によれば完全に、違憲よね。

 こんなことによって、育休取りにくくなる人が増えないことを、祈ります。

週刊朝日 2016年2月26日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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