作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。イベント「エロは地球を救う!」について、率直に意見を述べた。

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 先日、「24時間テレビ エロは地球を救う!」というイベントがネットで話題になっていた。女性が胸を露出し、客がお金を払うと胸を揉めるというもので、スカパー!主催の、毎年恒例の行事だそうだ。

 イベントの写真を見た時、思わず、きもちわるいっ!!と呻いた。それは多分、見た写真が女性の胸を触りながら心から楽しそうに笑う男の横顔だったからだ。女性の胸だけが写されたものだったら、ここまで感じなかったかもしれない。男の笑顔は、その場で行われていることを雄弁に語っているように見えた。そこに女はいないのだ。そこにいるのは、おっぱいと、男だけ。

 ネットでは、「おっぱいの柔らかさに感動した」「いろんなおっぱいがあるんだ」「おっぱい偉大」「女の子が明るくてよかった」という前向きな感想に溢れている。猛々しい欲望を露にするというよりは、まるで、猿の赤ちゃんって、あんなに柔らかいんだぁ~。パンダ頑張ってた~。ゴリラ偉大~。と動物園の飼育体験をしたような感想に率直に戸惑う。何だろう、この強烈な違和感は。だけれど何だろう、この既視感は。

 男たちの明るい笑顔と感動の中で揉まれる女たちの乳房。集まったお金は、HIVの啓蒙団体に寄付されるという。公然わいせつ罪にも、風営法にも触れない合法なものだという。そう、女たちが文句を言わない限り、声をあげない限り、男たちのエロは平和に保たれるのだろう。というより、この国で「エロ」と呼ばれるものは、女が無言でいることで成立してきたものが、多いのではないか。

「たかがエロでしょ~」「おふざけもわからないのか~」「誰も傷ついてないでしょ~」「これがイヤだというのは、あなたの感性の問題でしょ~」という批判の声が、今にも聞こえてきそうだ。

 
 昔も今も、性差別表現について声をあげる女には、「男のルールをわかっていない者」として嘲笑が向けられる。男に叩かれる女を見て、多くの女は黙る術、見ない術、知らない術、または時には一緒に楽しむ術を身につけていくのだ。今回も「女が女のおっぱい触れる貴重な機会!」と、イベントを肯定的に捉える女性の声もあった。

 この国の女と男たちは、「エロ」に、ずいぶん飼いならされてきたのだと思う。深く考えなくてもすむように、男たちは自分たちに当然与えられる環境としてエロがあり、女たちは深く考えようとすればするほど苦しむ課題として、エロを生き抜いてる。

 ちなみに、韓流ドラマやK−POP目当てでスカパー!やWOWOWなど、衛星放送に入る女たちによれば、エロ番組の多さが苦痛の域に達しているとのこと。有料コンテンツなら目にしないでもすむけれど、CMなどで目に入ることもあるという。ちなみに今、スカパー!のHPを見たら、井上陽水さんのコンサート放送の案内と並んで、おっぱい募金のことが記されていた。

 男のエロの公共化、いい加減にしてほしい。

週刊朝日 2015年12月25日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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