「警察から通報があったのは、05年9月と10年12月の2回だけです。それ以降も、県はH容疑者の家族から相談を受けていたので、必要に応じ、警察と情報共有はしていた。最後にH容疑者の家族から『息子の具合がよくない』と相談があったのは14年10月。『何かあったらよろしくお願いします』と明石署、洲本署に情報提供したが、それ以降、やり取りをしていない」

 兵庫県警県民広報課は本誌の取材に対し、事件前のH容疑者には「刃物所持や暴力などの危険性、切迫性は認められなかった」と、Aさんへの説明とほぼ同様の主張を繰り返した。また、「3月5日、6日に回答するとは発言していません」と、Aさんとの「約束」を否定した。

 精神科医の片田珠美氏はこう疑問を呈する。

「今回の場合は、警察が23条通報して措置入院させるべきだった。H容疑者の両親、近所の方々も警察などに相談。話の内容や相談の回数から自傷他害の恐れがあるとわかる。しかもH容疑者自身も服薬を拒否していたのであれば、病院に強制的に連れていくなど、対応しなければいけません。妄想が再燃する可能性がきわめて高いからです。警察がきちんと対応しなかったことが、事件につながったのではないか」

 H容疑者のようなケースでは、病気という自覚がない場合も多いという。

「妄想が激しくなると、それを家族や周囲に否定されて、攻撃的になることがあります。自分が迫害されているように感じるので、家族、周囲で対応するには限界があります。やはり警察が動くべきだったと思いますね」(片田氏)

 Aさんはこう訴える。

「いい加減な対応をされ、怒りでいっぱいです。悔しくてたまらない。両親は警察がちゃんと対応してくれたら死なずに済みました」

(今西憲之、本誌取材班=牧野めぐみ、小泉耕平)

週刊朝日 2015年8月7日号より抜粋