夫や子どもと暮らしながら外出せず、人との交わりを避ける妻たちがいる。内閣府の実態調査からは取りこぼされてしまっている“ひきこもり主婦”たちだ。近著『大人のひきこもり』(講談社現代新書)も含め、この問題に20年近く取り組んできたジャーナリスト・池上正樹が追った。

「ひきこもり」とは社会から孤立し、長期間、家族以外との対人関係がない状態をいう。中には、特定の場面で言葉を発しなかったり家族ともまったくしゃべらなかったりする「緘黙」と呼ばれる状態の人たちもいる。

 これ以上傷つけられたくないし、相手を傷つけたくもない。空気を読みすぎて周囲を気遣いすぎ、迷惑をかけることを恐れ、疲れ果て、社会から離脱していく。そんな“諦めの境地”が、ひきこもり当事者たちには共通している。

 夫も子どももいながら「ひきこもり」と自覚する女性がいることに違和感を抱く読者がいるかもしれない。だが実際に存在するのだ。筆者は最近「ひきこもり主婦」についてネットメディアで取り上げたところ、同じように「生きづらさ」を抱える主婦たちから、何通ものメールが寄せられた。潜在的にかなりの数に上るのではないかと推測できる。

 ところで筆者が把握する限り、「ひきこもり主婦」についての公的データはまだない。2010年に内閣府が公表した「ひきこもり実態調査」によると、ひきこもり者は約70万人、予備軍を含めて225万人にのぼる。これは39歳以下が対象だ。それとは別の各自治体が実施した調査では、40代以上の比率が3割から半数を超えている。しかも内閣府の調査は5年前から実施されておらず、現実に即しているとは言い難い。

 さらに、この内閣府の調査では「ひきこもり」に占める女性は3割前後。対象は「自宅で家事・育児をすると回答した者を除く」と定義され、主婦をカウントしていない。つまり結婚した女性がひきこもると想定していないのだ。

 一方、筆者のこれまでの取材では、幼少のころに受けた心の傷を親や周りの人から口止めされ、苦しさを胸の内に封じ込めてきた結果、生きづらさを抱え、ひきこもり状態に陥っている女性は少なくなかった。彼女たちは結婚できたとしても、家族以外の人に心を閉ざし、社会やコミュニティで孤立している。

週刊朝日 2015年1月30日号より抜粋