仕事に煮詰まると散歩する。そうするとなぜか頭がスッキリして、いいアイデアが浮かぶ──。そんな経験をしたことはないだろうか。体を動かすと脳も動く。同じことが認知症予防にも言えるが、これを機に何か運動を始めたい。そう考える人におすすめしたいのが、「シナプソロジー」だ。

 シナプソロジーとは、頭と体を同時に使って、脳を適度に混乱させることで活性化をうながす運動プログラムだ。スポーツクラブを運営するルネサンスの執行役員、望月美佐緒さんらが中心となり、昭和大学の藤本司・名誉教授(脳神経外科)からアドバイスを受けて開発。認知機能の維持・向上に効果があるとして、介護施設などでも導入され始めている。

「シナプソロジーでは、じゃんけんや足踏み、ボール回しといった軽い動きをしながら、声を出したり、計算したりします。二つ以上のことを一緒にやることによって、視覚や聴覚などの五感や、認知機能が刺激されるのです」(望月さん)

 たとえば、こんな具合だ。

 1から4までの数字に対し、1では両手を頭にのせ、2ではその手を胸の前で交差、3では両手を腰にあて、4では両ひざにのせる、というように、動作を組み合わせる。

 
 この後、別の人が「2、3、1……」と数字をアトランダムに言う。言われた側は、先ほどの数字に対応した動作を思い出し、そのとおりに体を動かす。このとき、言われた数字を声に出して言ってみることがとても重要だという。

「動作を思い出そうとすることで記憶の機能が、声に出すことで感覚器が刺激されます。その際、間違えたり、うまくできなかったりすることもあるでしょうが、それがいいんです。できないことに対応しようとすることで、脳がフル活動し、認知機能の向上が図られるのです」(同)

 したがって、シナプソロジーでは「学習効果」や「慣れ」は求めない。そのため、同じプログラムを続けるのではなく、動作を変えたり、言葉を「1、2、3」から「あ、い、う」あるいは「A、B、C」などに置き換えたりして、常に脳が刺激されるように工夫する。「頭が混乱していることを、むしろ楽しんでください!」と望月さんは笑う。

 このシナプソロジーの効果を、筑波大学大学院人間総合科学研究科の田中喜代次教授が検証している。

 36~84歳の健康な17人に対して、週1回10分程度のシナプソロジーを約3カ月、計12回にわたって導入した。すると開始前と比べて、短期記憶や長期記憶、注意・実行機能(注意したり、料理などものごとを成し遂げたりするための機能)、言語流暢性(言葉を数多く、素早く処理する能力)がアップしていた。

「MCI(軽度認知障害)の患者さんに対する効果検証は、現在、進行中です。1~2年後をめどに結果を発表したいと思っています」(田中教授)

週刊朝日  2014年7月25日号より抜粋