作家の室井佑月氏は最近「自衛官だからいいの?」と思ったことがあるという。

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 テレビでワールドカップ、日本vs.コートジボワールを観た。前半、日本の本田選手が1点入れ、そのまま勝ち逃げで! と必死こいて祈ったが、後半、ドログバ選手が現れて試合の流れが変わってしまった。

 こういうことってあるんだね。日本が負けてしまったのは残念だけど、こういうこと──一人のスターが現れ、流れが変わることもある──というのは別の意味で期待しよう。

 たとえば、集団的自衛権の行使について。これだけ国会議員はたくさんいて、これだけメディアで活躍している人はいるのに、なぜ抑止力にならないのだろう。

 ほんとうにみなさん、この国が同盟国の戦争に参加することによって、国民の命や安全は守られると思ってる?

 14日付の日刊ゲンダイ、元外務省国際情報局長の孫崎享さんのコラムに、イラク戦争やアフガニスタン戦争に参加し、亡くなった人の数が書かれていた。

 
「イラクでは米国が4488人、英国が179人、イタリアが33人、ポーランドが23人。アフガニスタンでは米国が2325人、英国が453人、カナダが158人、フランスが86人、ドイツが54人などとなっている」

 こういう話をすると、

「でも、真っ先に戦地にいかされるのは自衛隊の人たちだから」

 という人がいる。なんて他人事な……。この国は少子高齢化。若い命は大切にしなくては。そういや、以前テレビに出て、

「アメリカの若者が血を流しているのに、日本の若者が血を流さなくていいのか」

 なんていった政治家もいたっけ。この国の国民を守るのが、政治家の役目じゃないの? 自衛官は国民じゃないってか。

 あたしには自衛官である甥っ子がいる。彼は自分の国を守るという高い志で自衛隊に入った。他国の戦争に巻き込まれるためじゃない。歴史的にみればあれは無駄死にだったなんてこと、絶対にあってはならないと思う。

 
 この国には自衛隊の強さを誇示したいというオヤジたちがいる。自衛隊の中にもそう思っている人はいるだろう。けど、あたしたち国民は、わざわざその力を見せつけなくても、災害の時など頼りになる自衛隊の人々に、感謝しているし敬意も抱いている。

 じつはいちばんそういう気持ちを抱いていないのは、簡単にその血を流せという人たちのほうじゃないのか。

 そういや噂で聞いたが、政治家のAさんの甥っ子はテレビ局に、Iさんのお嬢さんは電力会社に入社したんだとか。

 この国を守るため他国と協力し戦うことが重要だ、と本気で思っているなら、なぜ血の近い若者をその要である自衛隊に入れない?

 ほかの政治家たちもそうだよ。意見もいえない、意見をいう気もないというなら、いっそみんな自衛隊に入れてもらえ。ちょっとはこの国のこと愛してたんだって信じてあげる。

週刊朝日  2014年7月4日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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