集団的自衛権の行使容認に向け、自民、公明両党の協議が大詰めを迎えている。防戦一方で、「平和の党」の矜持(きょうじ)を見せられない公明。支持母体の創価学会も揺れに揺れている。安倍晋三首相(59)の高笑いだけが響く向暑となってしまうのか。

 1964年に結党した公明党は「福祉と平和」を最重要政策に掲げてきた。支持母体の創価学会は持ち前の集票力で自民党議員の当選を“アシスト”している。

 本来なら自民に強気の交渉を挑むはずなのだが、公明党に覇気は感じられない。その背景をジャーナリストの乙骨正生氏が解説する。

「第1の理由は、公明党と創価学会が自民党に急所を握られてしまっていることが挙げられます」

 その代表例は憲法が宗教の権力行使を禁じる「政教分離」だ。今月10日、飯島勲・内閣官房参与がワシントンで行った講演は大きな話題を呼んだ。従来の政府見解は公明党と創価学会の「政教分離」を認めているのだが、それを見直して「政教一致」とする可能性に言及したのだ。

「講演に先立つ5月16日、創価学会は朝日新聞の取材に対して『集団的自衛権の行使容認は憲法改正の手続きを経るべきだ』との見解を示しました。飯島氏は学会と公明の関係が違憲状態だと指摘し、釘を刺そうとしたのは明らかです」

 乙骨氏が第2の理由に挙げるのは「公明が与党のうまみを知ったこと」だ。

 93年、非自民の細川護熙内閣で公明党は初めて与党入りを果たした。翌年には下野するものの、99年に自民、自由、公明の第2次小渕恵三内閣で返り咲く。

「与党なら様々な政策を実行できます。小渕内閣の地域振興券は記憶に新しいでしょう。2000年からの森喜朗、小泉純一郎内閣では坂口力・厚生労働大臣が就任。公明党の重点分野である医療・福祉政策のトップを担いました。うまみを知った以上、与党から離れるのは難しいでしょう」

 集団的自衛権の行使容認に賛成すれば、安倍政権と様々な“バーター(取引)”をするとの見方もささやかれる。ある自民党関係者は「大臣枠を2人にしたいのではないか」と推測するが、乙骨氏は「公明党がより切望しているのは軽減税率でしょう」と言う。

「公明は消費税率が8%に引き上げられる際にも軽減税率を主張しました。集団的自衛権とは異なり、消費増税は学会員の生活に直結します。実現できれば成果をアピールできます」

 だが、学会幹部は公明党の安易な妥協に批判的だ。支持母体とはいえ見解が相違することもある。以前もPKO協力法などで党と学会の主張が対立した。

「創価学会の中には『日本が他国の戦争に巻き込まれる』などと集団的自衛権の行使容認に不安を抱く人は多い。なぜ公明党が賛成なのか納得のいく説明を行わなければ、党や学会に批判が殺到するかもしれません。軽減税率を交換条件にするなど論外です。裏取引と非難されるのは必定でしょう」(学会幹部)

 一方、安倍自民党は攻勢を緩めない。6月20日には国連決議に基づく集団安全保障でも自衛隊の武力行使を認めるべきだとの提案を畳みかけた。平和主義は、公明党と創価学会の存在理由だ。それを自分で壊せば、見返りとしてポスト増や政策実行を勝ち取ったとしても割に合わない。

「下駄(げた)の雪」とも呼ばれる公明党。山口代表が「下駄の鼻緒だ」と顔を真っ赤にして反論したこともある。鼻緒が切れれば歩けないとの主張だ。

 下駄の雪か、鼻緒か。答えはまもなく明らかになる。

週刊朝日  2014年7月4日号より抜粋