しかも、がんが乳首のすぐ近くだったので、乳輪や乳首の切除の可能性もある。テンションが高いときは「命のほうが大切だから、バサッと切って」なんて言うんですけど、「やっぱり、おっぱい切らないといけないのかな」なんてちょっと落ち込むこともありました。木下先生にも、そのときの気分によって、いろんなことを言ってしまったんですが、先生はいちいち患者の気持ちに引っ張られずに、なるべく乳房を温存しながらがんを取りきることを考えてくれました。

 今考えると木下先生の中で、「医師としては命がいちばん大事。でも、誰でも乳房をできるだけ残したいに決まっている」という優先順位がしっかり決まっているんですね。だから私の気持ちが揺れても、先生はぶれずに最善の治療方法を提案してくれたのだと思います。幸いなことに再手術の結果、ギリギリで乳頭は残りました。

 手術が終わり麻酔が切れたころに、木下先生が病室まで説明に来てくれて、雑談をする機会があったんです。そこで、私が「患者もいろんなことを言うし、先生も大変ですね」と聞くと、「僕は男で、女性にとって乳房がどれだけ大切かわからないから、患者さんの意思が何より大事」と仰りつつ、「でも、自分は医療のプロだから、説明の仕方で患者さんの選択も変わってしまう。医師の責任は重いよね」と言われたんです。

 言葉の端々から私の意思を尊重してくれていることも伝わりましたし、同時に医師としての責任もとても強く感じていらっしゃるんだなあと思いました。その口調は「やっぱりさ~、僕の説明大事だよね~」とすごく柔らかいんですけどね(笑)。手術後に先生の本音が聞けて、改めて「木下先生に診てもらえてよかった」と思いました。

 今はホルモン治療を続けていますが、先生のお人柄が大好きなので、3カ月に1度の診察を楽しみに通っています。

週刊朝日  2014年6月6日号