母を失った喪失感にさいなまれる“母ロス”が増えている。今回、本誌が40代以上の女性500人に実施したウェブアンケートによると、半年後までに立ち直ったケースが4割強だった一方、3人に1人は「自分が死ぬまで続くと思う」と回答しており、精神的なダメージが長引くことがうかがえた。ライターの松田亜子が、その解決法を探った。

*  *  *

 遺児の支援活動などでグリーフケアに携わる一般社団法人「リヴオン」代表の尾角光美(おかくてるみ)さん(30)は、母の他界から11年経った今も、折に触れて“悲しみスイッチ”が入る。

「親の死への悲しみや苦しみは、人生の節目ごとに形を変えて生まれてきます。今はその悲しみを、そのまま大切にするように生きています。喪失感、怒り、憎しみ、罪悪感は、つながりの表れ。親の死とは卒業したり乗り越えたりするものではなく、ともに生きるものだと思う」

 今回のアンケートで“母ロス”に陥った際の悲しみの癒やし方や乗り越え方をたずねた。「墓参りをした」「パートナーに頼った」「気を紛らわせるために趣味などを始めた」「日記や手紙に書いた」といった具体的行動を起こした人がいる一方で、最も多かったのは「時が過ぎるのを待った」。

 こうして娘たちを苦しめる“母ロス”を長引かせないためにはどうすればいいのか。親が生きている間にどう向き合うべきなのだろうか。母娘関係のカウンセリングをする臨床心理士の信田さよ子さん(67)は、こう解説する。

 
「親は必ず先に死ぬ、喪失感は必ずやってくると覚悟を決めること。自分の母親がどんな人生選択をしてきたかを知ることも一つの方法です。そうやって母親と向き合い、『どう送るか』を考えておく。いずれにしても、母親の死は娘にとっては転機になるんです」

 都内在住の会社員Aさん(50)は今、仕事のピンチを乗り越えるたび、母が支えてくれたと感じる。大好きな海に行くと、心の中で母と会話ができるという。以前、知人が同じようなことを言った時は、<そう思いたいだけだ>と聞き流していたが、今は「私がいてほしいと思う時には必ず母はそこにいてくれる」と信じている。

 関西地方のフリーライターBさん(63)は、母に一時期抱いた確執は、2人の関係に問題があったのではなく、自分自身の生き方がうまくいっていなかったせいと気づいた。

 尾角さんはこの正月、白味噌仕立ての雑煮をつくった。だし巻き卵には酒を入れた。数少ないながら懐かしい母の味だ。

「お米を洗った後、蛇口から水をちょろちょろと出しておくのも母の影響。母が大事にしていたことを自分も大事にすることが、今、私にできることです。母に感謝はできるようになったけど、好きにはなれない。でも小さなことを引き継ぐことで、母とのつながりを紡いでいる気がします」

週刊朝日  2014年3月28日号