「大会開催に伴う建設によって東京の自然環境が破壊されることはない」。IOC委員を納得させた東京の招致プランにはこう明記されている。だが、カヌーのスラローム競技の会場を巡って、早くも環境問題が浮上している。

 公益財団法人「日本野鳥の会東京」によると、競技会場に予定されている東京都江戸川区の葛西臨海公園は、これまで226種類もの野鳥の飛来が記録されているという。絶滅危惧(きぐ)1A類に分類されているクロツラヘラサギの越冬も確認されており、隣接する葛西海浜公園は都内で唯一のラムサール条約の登録候補地ともいわれている。

 同会の飯田陳也幹事は、「東京五輪決定はうれしい」としたうえで、代替地の検討を訴える。

「完成予定図によると、自然が多い公園西側を中心に、木々や芝生の間を縫って、人工のコースを造る計画のようです。コースは全長約400メートルに及びます。東京都は詳細な『環境影響評価』を行い、できるだけ自然を壊さないよう配慮すると言っているが、影響はゼロではないでしょう」

 多田正見江戸川区長も否定的な立場を取る。2012年3月の区の予算特別委員会では、葛西臨海公園を半分壊す計画に対して、「許されないことだと東京都に強く抗議した」と発言している。

 競技場の整備には約32億円がかかるが、会場を使用するのはたったの5日間だ。一方、葛西臨海公園の生態系が形成されるまでには、20年以上の時間がかかっている。今では地域住民の憩いの場となった公園を壊す価値はあるのか。

 本誌の取材に対し、都の招致推進部担当者は、「都内には、ウオータースポーツに親しめる施設がほとんどありません。大会後はカヌーだけでなく、都民がラフティングなどを楽しめる施設にする予定です」と主張する。だが、生物学者で早稲田大学国際教養学部の池田清彦教授は憤りを隠さない。

「ここで以前、カラスアゲハを見かけて驚いた。都内ではまず見られない種類だよ。五輪だから何でも許されるというのは大間違い。ほかにも会場用地の選択肢はある。ここでやるのは合理的な判断とはいえない」

 どんな大義名分があろうと、環境保全をないがしろにすることは許されない。

週刊朝日  2013年9月27日号