胃がんは年間12万人がかかる「日本で最も多いがん」だ。1960年代までは死亡率が高かったが、検査や治療法の進歩によって少しずつ減少している。早期がんの生存率は100%に近い。しかし県立静岡がんセンター・胃外科部長の寺島雅典医師はこう話す。

「減ったとはいえ、死亡率は肺がんに次いで第2位で、年間5万人が胃がんで亡くなっている。軽視できない数字です」

 がんは胃壁の内側の粘膜に発生し、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層、漿膜と、徐々に胃壁の奥深くへと進行していく。がんの深さのほか、リンパ節移転の数や遠隔臓器への転移の有無などによって病期(進行度)が分類され、「胃癌治療ガイドライン」(日本胃癌学会)には、病期ごとの基準となる治療法が示されている。

 浅い部分にとどまっているごく早期のがんで、大きさや、リンパ節転移の可能性がきわめて低いといった条件を満たせば、内視鏡治療ができる場合が多い。胃カメラ検査の延長のような治療で、おなかに傷をつけずに済み、体への負担は少ない。

 早期でも内視鏡治療の対象にならないものから、いちばん外側の漿膜におよんだ進行がん(病期IIIC期)までは、外科手術で胃の一部あるいは丸ごと切除する。

 なお、ガイドラインに示されている標準治療は開腹手術だが、I期、II期には、胸に小さな傷をつけカメラや器具を胸腔内に入れて、小型カメラの映像を見ながら行う「腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術」を実施する病院が増えている。

 現在、腹腔鏡下手術は開腹手術との成績を比較する臨床実験中だ。2014年ごろまでに症例の集積は終わるが、標準治療として位置づけられるかどうかが決まるのはさらに先になる。静岡がんセンターも臨床試験に参加している病院の一つ。「あくまでも印象」としつつ、寺島医師は二つの手術をこう比較する。

「退院するまでの期間はどちらも1週間前後で、短期的な回復期間で見ると、ほとんど差はありません。術中の出血量は腹腔鏡下手術のほうが少なく、皮膚や筋肉の傷も小さいため、全体的な負担は軽い。負担が軽いぶん免疫力の低下も少ないですから、将来『開腹手術よりも再発率が低い』という結果が出る可能性もあります」

 腹腔鏡下手術は、臨床試験中とはいえ02年に保険適用になった。全国で胃がんと診断されて手術を受ける患者の4人に1人は腹腔鏡下手術を選んでいる。しかし、寺島医師は、「腹腔鏡下手術には専門的なトレーニングが必要で、技術力の差が合併症や手術結果に直結します。最低でも年間20例程度手術しないと、指導できるレベルにはなりません。適切な手術がされているかどうか注意する必要があります」と指摘する。各病院の手術数のほか、日本内視鏡外科学会の消化器・一般外科技術認定医であることなどを参考に、慎重に病院を選ぶべきだという。

 なお胃がんにもロボット手術が導入されるようになり、現在、静岡がんセンターを含む約20の病院が実施している。

「ロボットであれば小さい傷から緻密な作業ができるので、開腹手術と腹腔鏡下手術の両方のメリットがある。早期胃がんだけでなく、進行胃がんの一部にも広げていける可能性があるでしょう」(寺島医師)

 今後先進医療として認可される可能性も高いという。寺島医師はこう続ける。

「機器や技術が進歩したおかげで、今は80代、90代でも手術ができるようになっています。高齢化が進む中で『体への負担が少ない手術』の役割は、ますます大きくなるのではないでしょうか」

週刊朝日  2013年9月6日号