2030年、日本は65歳以上の人口が3割を超える。100歳以上の超高齢者の人口は現状の5倍ほどだ。かつて世界が経験したことのない少子高齢化社会を迎えることには不安もよぎる。しかし、医療やエネルギー、食料など、日本には暗い未来予想をくつがえすだけの技術と知識がある。再び世界をリードする日は、きっとくる。以下、近い未来をシミュレーションしてみた。

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「キースッ! キースッ! キースッ!」

 2030年。流行に敏感な高齢者が集う街、TOKYO・SUGAMO。人生2回目の結婚式は、悪ノリした高齢者仲間のキスコールで宴もたけなわになった。

 住谷靖(70)は、40歳から2度目の独身を貫いてきたものの、新しい人生を楽しみたいと、「終活コン」で出会った今日子(66)にプロポーズした。まあ、正直言えば寂しかった。人生はまだ数十年はあるのだ。

「早くキスしろよ!」

 促されて今日子の顔を見つめると、肌がツヤツヤしていて66歳とは思えない。冷凍保存していた若いころの「肌細胞」を注入しているそうだ。最近の高齢女子に人気の美容法らしい。

 今日子は静かに目を閉じている。「よろしくね」。小さな声で合図すると、「こちらこそ」。今日子がゆっくり微笑む。そしてそっと唇を重ね合わせた。

「イエーッスゥー!!」

 いっせいに歓声が沸き起こる。集まってくれたのは、大学時代の友人や昔の会社の同僚など、ほとんどが同世代だ。だが、腰が曲がったり、杖をついたりしている者は一人もいない。

 iPS細胞による再生医療や、遺伝子治療の実用化で医療は飛躍的に向上し、健康なお年寄りが格段に増えている。日本人の3大死因であった「がん」「心疾患」「脳卒中」の治療は急速に進んだ。

 日本の医療は今や世界一だ。断トツの長寿国となり、アラブや中国など各国の富裕層たちは、高度な医療技術を求めて老後は日本に大挙して押し寄せる。軽井沢や箱根といったリゾート地には、高級ホテルのような外国人向けホスピスが立ち並び、日本の医療産業は国内総生産(GDP)の2%を占めるまで成長した。

 付き合って間もなく、今日子から「秘密」を打ち明けられたことがある。

 衝撃的だった。今日子は高校生のころ、スキー中に転倒し、脊髄(せきずい)損傷を負った。以来、電動車椅子をあごで動かす生活を余儀なくされた。2年前、再生医療で神経を移植し、46年ぶりに歩けるようになったという。

「こういうの夢だったの」。はしゃぐ仲間たちを照れながら見ている今日子の肌は一段と輝いて見えた。

週刊朝日 2013年8月30日号