アベノミクスに沸く日本だが、「伝説のディーラー」の異名をとる藤巻健史氏は、この現状に疑問を呈す。

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 いま世間はアベノミクスで浮かれ気味だ。しかし、私に言わせると、「人々はきれいに積もった真っ白な雪原に感銘を受けているが、その下に埋もれている荒れ地を見ようとしていない」のだ。雪が溶けると、ぐちゃぐちゃになった地面(=財政状況)が現れるかもしれない。

 財政は刻一刻と悪化している。アベノミクスでは、景気は回復しても財政は改善しない。それどころか景気回復による金利の上昇や国土強靭化計画での財政支出増は財政悪化を加速させる。

 私が累積赤字の増大に警告を発し始めた15年前なら、景気回復は財政改善に大いに役立ったはずだ。しかし累積赤字が3倍近くにまでなった現在、景気回復は税収増よりも、さらに大きな支払金利増をもたらすのだ。非常に怖い事態だ。

 米ワシントンで開かれ、4月20日(日本時間)に閉幕した主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は共同声明で、日本に「信頼に足る中期的な財政計画」の策定を求めた。経済協力開発機構(OECD)がまとめた2013年の「対日経済審査報告書」で「信頼のおける財政健全化計画」が不可欠だとしている。諸外国から見ても日本の財政は異常な状態なのだ。

 政府は「20年度までにプライマリーバランス(PB=政策的な経費を、その年の税収でどれだけ賄えるかを示す指標)を黒字化させる」という目標を掲げているが、そんなものは気休めにしかならない。PBとは国債の元本返済と金利支払い(国債費)を除いた話である。PBの赤字がなくなった後でも、現在の国債費の約22兆円分の赤字は、毎年増え続けるわけだ。

 累積赤字を減らすためには、借金返済を含めた単年度の収支を黒字化することが必要なのだが、その方法をだれも見いだしていない。13年度の予算案では、税や印紙など47兆円の収入に対して92兆円を支出し、45兆円の赤字である。これを黒字化するのは至難の業だ。消費税率を5%から10%に上げたとしても、約10兆円しか赤字は減らないからだ。

 景気回復に浮かれず、真剣に財政のことを考えないと、私の警告する「財政破綻かハイパーインフレ」はすぐにでも現実のものとなってしまう。

週刊朝日 2013年5月17日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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