プレミアスイートの一室。エリザベス・テーラーなどハリウッドスターがよく泊まっていたタイプの部屋だ。全客室にバトラー(執事)が付き、お茶の給仕から荷造りまであらゆるサービスを24時間提供してくれる(撮影/写真部・山本友来)
プレミアスイートの一室。エリザベス・テーラーなどハリウッドスターがよく泊まっていたタイプの部屋だ。全客室にバトラー(執事)が付き、お茶の給仕から荷造りまであらゆるサービスを24時間提供してくれる(撮影/写真部・山本友来)

 ハリウッドスターから歴代首相まで、国内外のセレブに愛された「ホテル西洋銀座」。5月末で、26年の歴史に幕が下ろされる。

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 ホテル西洋銀座は、1987年、セゾングループ創業者・堤清二氏の構想によって開業された。客室数77室と小規模ながら、既存のホテルにはないサービスを追求し、日本初の“コンシェルジュ”や“バトラー”を導入したことでも知られる。しかし昨年5月、財務強化のために、ホテルの親会社が「銀座テアトルビル」の売却を発表。ビルに入居する同ホテルと映画館、劇場が今年の5月末で営業を終了することとなった。

 ホテルを支えてきたスタッフには“規格外”の人物が多くいた。よく知られているのは、95年に世界最優秀ソムリエコンクールで優勝した田崎真也さんだろう。

「開業準備のときから働いていました。世界を目指しながら働けるのはここしかなかった。ホテル西洋銀座なくして優勝はありませんでした」

 田崎さんはそう話す。社長から直々に「世界最高のワインリストを作って」と頼まれ、買い付けの予算も桁違いだった。グラスやカトラリーなども最高級品を揃えていた。

「91年の世界陸上東京大会では、カール・ルイスさんが宿泊していました。そのとき、世界新記録を出したんです。ホテルから何かお祝いをしようとなり、部屋を風船で飾り付け、86年のアメリカワインを用意しました。新記録が9秒86だったんです。そういうサプライズはよくやっていましたね」(田崎さん)

 小規模だからこそ、一貫して人間関係を大切にしてきたという。「ラウンジのメニューには、コーヒー、紅茶、オレンジジュースなんてものはありませんでした。何かわからないものしか載っていない。それは、ウエーターを呼んでほしいからなんです。良いサービスは、会話をしなきゃできない。そういう仕掛けがあちこちにありました」(同)。

 勤続19年で、現在は広報を務める田渕美千枝さんもこう話す。「いわゆるマニュアルはありませんでした。マニュアルがあると、それだけをクリアすればいいと思ってしまう。でも、本当に大切なのは臨機応変に対応すること。何をしたら喜んでもらえるか。観察力と想像力が勝負です」。

 人と人が触れあうからこそドラマが生まれ、記憶に刻まれていく。常連に名を連ねるハリウッドスター、スポーツ選手、政財界の重鎮たち……。この小さなホテルは、どれほど多くの“ドラマ”の舞台になってきたのだろう。

週刊朝日 2013年4月26日号