相続税にまつわる人間模様はさまざまだ。元東京国税局職員で、現在税理士の武田秀和氏は「相続税は『人間くさい税金』」と前置きしたうえで、税務調査の実態をこう言う。

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 申告書が提出されると、税務署は国税庁の「KSK(国税総合管理)システム」で、被相続人の預金取引の履歴や不動産の保有状況、処分状況などを把握します。このシステムには、個人の所得税の確定申告や過去の資産譲渡など膨大なデータが蓄積されています。

 どのような申告書が調査の対象になるのか、という質問をよく受けます。実は、個別案件の調査基準は、あってないようなものです。

 被相続人の生前の職業、経済活動の状況、高額で活発な預金や株式の取引、家族の高額な資産購入――。そうした基礎情報をもとに、上席調査官が、長年の勘で調査に入るかどうかを決めます。

 調査初日は「宣戦布告」のようなものです。相続人の話を聞くだけでなく、被相続人の生活の中心である自宅内の「現物確認調査」をします。被相続人の財産の一部である自宅、机の中の日記や手帳などを調べあげます。「○月〇日、××株を購入」などと記してあったら調査の端緒になります。

 その後、金融機関や関係会社に調査が行われ、長いと2~3カ月かかることがあります。相続人側が調査を早めに終わらせるためには、協力姿勢が大事で、調査官の質問に対するうやむやな回答は疑念を持たれる要因になります。そして、調査官と不毛な対立をしないことでしょうか。

週刊朝日 2013年1月25日号