孫崎:日本ではクリミアが軍事力を背景に無理やり併合されたように言われていますが、国際監視団がいる中での住民投票で住民の9割以上が独立ないしロシアへの併合を支持した。歴史的な経緯からもロシア人がたくさんいる地域です。

鳩山:現地の状況からも、日本でイメージされているように脅されて投票したのではないとわかりました。二つの大学で学生と交流しましたが、彼らは自由を謳歌した雰囲気で、断じて作られた笑顔などではなかった。町に銃を持った兵士もおらず、穏やかな観光都市そのものでした。

木村:しかし、鳩山さんへのバッシングはひどかった。単に「宇宙人だ」とレッテルを貼って、クリミア問題の本質についての議論がほとんどない。

鳩山:私は宇宙人であることを否定しません。地球を空から広い視点で見られますから(笑)。日本は西側の視点からしか物事を見ず、オバマが正義でプーチンが悪というイメージが作られてしまっている。

孫崎:例えばカーター元大統領は米国が国家として承認していない北朝鮮に行ったが、「国務省の考え方と違うから売国奴だ」などとはたたかれない。物事がどう展開するかわからないからこそ複数のチャネルが必要で、相手が敬意を持ってくれる元首相というのはある意味、利用価値が高い。

木村:鳩山さんの訪問について会見で話す中で、菅官房長官はクリミア編入を「侵略」と言い切ってしまった。これでは住民の意思を踏みにじることになる。

鳩山:今後の北方領土問題の交渉を考えても、官房長官がああいう発言をしてしまうのは問題です。国際社会はいずれ、クリミアをロシアの一部と認めるでしょう。ならば早く経済制裁を解いて、領土問題に取りかかるべきです。

孫崎:そうですね。プーチンのように右派なのに領土問題の解決に積極的な指導者がいなくなれば、ロシアは今まで以上に強硬になる。プーチン在任中が解決の最後の機会かもしれない。

(構成 本誌・小泉耕平)

週刊朝日 2015年4月24日号より抜粋