今年2月、麻酔薬「プロポフォール」の不正使用で2歳男児が死亡する事故が起きたのを機に、東京女子医科大病院(東京都新宿区)の内紛が表面化した問題で、経営を担う理事会に反発した笠貫宏学長が6日、解任される見込みだ。真相究明は進まず、置き去りにされた両親が本誌に胸中を語った。

 病院は5月30日付で「中間報告書」をまとめて厚生労働省に提出。ところが、その内容を確認した両親は「男児が死亡するまでの経過説明が不十分で、事実関係にも誤りがある」として撤回を求めた。病院内の奇妙な“内紛”が、事故の真相究明を遅らせているとの確信が、両親のなかで強まっていく。

 教授グループに属する執刀医は、両親にプロポフォールの使用について説明が足りなかったことの非を認めたが、6月5日の記者会見では自身の責任は否定。理事会も、今でも事故原因は究明できていないとの考えだ。いずれも両親に直接の謝罪はしていない。

 そして両者の対立が白日の下にさらされたのが同月11日。もともと理事会批判を強めていた笠貫学長ら「教授グループ」10人が、理事や評議員らに総退陣を要求した。これに対して、理事会も同月15日、この退陣要求を否決する。そして7月6日の理事会で笠貫学長の解任が話し合われた。

 解任の理由は「退陣要求などで学内の混乱を招いたから」。理由の一つとみられるのは“情報漏洩”で、それをもとに記事を発表させて世論を操ろうとしたという見方が有力だ。両親からの強い要望を受け、病院は、情報漏洩者を特定するための調査委員会を立ち上げているが、この聴取に応じない医師が教授グループの中に複数いるという。

 翻弄され続ける両親の心の傷は癒えない。母親は涙ながらに悲痛な訴えを繰り返す。

「どうか息子の死を内紛に利用しないでください!」

 父親は悔しそうに唇をかんだ。

「私は、病院側の説明会などで『対立するつもりはない』と言ってきました。対立すれば真相はわからなくなるから。治療にあたった医師に、一刻も早く真実を明らかにしてほしい」

週刊朝日  2014年7月18日号より抜粋