『風立ちぬ』 サウンドトラック 久石譲
『風立ちぬ』 サウンドトラック 久石譲
『かぐや姫の物語』 サウンドトラック 久石譲
『かぐや姫の物語』 サウンドトラック 久石譲

 今回は、最初にお詫びします。

 今回紹介するコンサートは、もう終わってしまっている。オススメ・ライヴ情報と言っておきながら、それはないよなと思いつつ、1年に1回くらい終わってしまったライヴについて語るのもよいと思うので、お許しください。

 はじめに、行こうと思っていて行けなかったライヴというものを思い出してみる。不思議なもので、観にいった公演より、思い出深かったりするものがある。好きだったけれどおつきあいできなかった女性のように、独り静かに思い出すことがある。

 前回紹介したローリング・ストーンズの、来日中止になった1973年のコンサートが、わが人生のチケットを買ったけれど行けなかった最初のコンサートだ。興味のある方は、第38回を読んでください。
 では、順不同で思い出すままに書き連ねてみる。

 まず、ロニー・スペクター。
 いわずと知れた永遠の名曲≪ビー・マイ・ベイビー≫を歌ったロネッツのリード・ヴォーカルだ。いつごろのことだったか、記憶が曖昧だ。場所は、六本木のライヴ・ハウスだったと思うのだが、これも、曖昧。
 思い出すのは、当日会場に行ったら入り口で、A4の紙に中止の旨と払い戻しの方法が書かれていた。この光景だけは、よく覚えている。わたしの他に誰もいなかったので、もっと前から告知はされていたのだろうと思う。チケットは取っておこうかな、と思ったが、最後には払い戻してしまった。

 次は、レナード・バーンスタインだ。あの指揮者のバーンスタイン。1990年、最後の来日のときだ。2回公演をして、その後体調を崩し、残りの公演をキャンセルしたとのこと。わたしが購入していた公演が、そのキャンセルにあたったわけだ。サントリー・ホールだったと思う。
 これも当日、会場に行って中止を知らされた。代演があって、それを聴いたら払い戻しはなしといった状況だったと記憶する。前年、カラヤンを見ることができずに亡くなってしまっていたので、バーンスタインだけはと思って行ったのだが、それもかなわなかった。その年の10月に、バーンスタインも亡くなっている。

 チケットを買っていて、公演中止になったもう一人は、ピアニストのマルタ・アルゲリッチ。
 この人は今でもよくライヴをやっているが、ソロ・ライヴというのは、80年代半ばころからほとんど行うことがなく、以降、数回開催されたていどのようだ。
 これもいつごろのことか曖昧なのだが、ついにソロで弾くという情報を得て手に入れたのだから、ソロでの演奏が久しぶりになってからのことだろう。このときは会場に行く前に、中止を知らされた。

 こんな話を友人としていたら、その友人がピアニスト、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリの公演が中止になり、払い戻しに行ったときに見たことを話してくれた。
 その中年の紳士は、払い戻しの列に並んでいたのだが、チケットをわたして代金を受け取る番が来ると、チケットを握り締め、「わたしは、ミケランジェリが聴きたいんだ、払い戻しなんかいやだ!」と言って、その場に崩れこみ、仰向けになって、イヤイヤをしたというのだ。まるで、駄々をこねるこどものようだったいう。係員に抱き起こされ、事務所に連れて行かれたとのことだが、ミケランジェリ、恐るべし!
 駄々をこねれば演奏してもらえるのなら、わたしもやることはいとわないのだが、ま、無理ですよね。

 これは、中止ではないのだが、チケットを買ったのに行けなかったコンサート。
 86年だったと思うのだが、山下達郎のライヴ。当時から達郎はすごい人気で、なかなかチケットが手に入らなかった。でも一度は観ておきたいと思い、やっとの思いで手に入れたのだが、気がつけばコンサートの日にちが、わたしの新婚旅行とぶつかってしまったのだ。チケットはお祝いに来てくれた人の中から、抽選であげてしまった。その後、達郎のライヴに行くチャンスはめぐってこない。クリスマスの季節になると思い出すのだ。

 もちろん、行きたくて行けなかった公演もたくさんある。それにチケットを取るということについて、わたしの性格は、最善の努力をするというよりは、人気公演でも運がよければ見られるさ、といったところがあって、何日間も徹夜をして購入したというような体験はない。徹夜をするという友人に買ってもらったことは何度かある。今にして思えば、いい友人たちだ。
 行きたかったのに行けなかったコンサートの話をすると長くなりそうなので、この辺で終わりにしたいと思うのだが、最後に、このテーマで書こうと思ったコンサートを紹介しておこう。もう終了してしまっているので恐縮だが、『久石譲 第九スペシャル』だ。

 あのジブリ映画で知られる作曲家の久石譲が、ベートーヴェンの交響曲第九を指揮するという企画だ。あわせて自作曲、映画『風立ちぬ』や『かぐや姫の物語』も演奏するという。
 年末の第九について、そしてジブリやその他たくさんの名曲を持つ作曲家・久石譲について書こうと思っていたのだが、力尽きてしまった。
 また、今後の課題とさせていただきたい。

 でも人生って、体験したこと、実現したことがすべてなのではなく、体験できなかったこと、手に入れられなかったことも、大切な思い出なのだなと思う。
 
 さて、今年もこのコーナー、残すところあと1回。みなさまも、おからだに気をつけて。年末までがんばりましょう。[次回12/25(水)更新予定]

■公演情報は、こちら(※すでに、終了した公演案内となります。)
http://www.hisaishi-daiku.com/