『A LETTER HOME』NEIL YOUNG
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『A LETTER HOME』NEIL YOUNG
PONO(撮影/大友博)
PONO(撮影/大友博)
ボックス・セット(撮影/大友博)
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ボックス・セット(撮影/大友博)

 ニール・ヤングは、つい先日(2015年11月12日)、70回目の誕生日を迎えた。もはやまったく現実味のない言葉かもしれないが、《古来稀》なりの、古希だ。

 とはいえ、彼はまだまだ元気。今年は7月からずっとツアーをつづけているし、長く取り組んできたファーム・エイドとブリッジ・スクールのベネフィット・コンサートでも大きな成果を収めている。しかも、そこで彼のバックを務めたのは、プロミス・オブ・ザ・リアルという、ウィリー・ネルソンの息子を中心にした若いバンドだ。

 ライヴだけではない。社会のさまざまな問題に目を向けながら、意義深い創作活動にも取り組んできた。昨年春にこのミュージック・ストリートでの連載を終えてからだけでも、アーカイヴものも含めて、じつに4枚ものアルバムを発表しているのだが、編集部からの了解もいただけたので、今回のコラムからはその4作品を、順を追って紹介していきたいと思う。

 2014年4月19日、レコード・ストア・デイにタイミングをあわせて発表された『ア・レター・ホーム』は、いかにもニール・ヤングらしい選曲のフォーク集。日本では《フォーク》という言葉の本来の意味がかなり誤解されているので、若干躊躇してしまうが、フォーク・カルチャーそのものに向けたトリビュート作品といっていいだろう。

 取り上げられているのは、フィル・オクスの《チェンジズ》、ボブ・ディランの《ガール・フロム・ザ・ノース・カントリー》、ウィリー・ネルソンの《オン・ザ・ロード・アゲイン》、ティム・ハーディンの《リーズン・トゥ・ビリーヴ》、エヴァリー・ブラザーズの《アイ・ワンダー・イフ・アイ・ケア・アズ・マッチ》など11曲。若いころに刺激や影響を受けた曲が中心だが、やや下の世代ということになるブルース・スプリングスティーンの《マイ・ホーム・タウン》も収められている。

 かねてからニールは、MP3やダウンロード、ストリーミングなどに対する強い違和感を表明してきた。一時はDVD/ブルーレイ・オーディオに解決の可能性を模索していたようだが、その後は、過去作品のアナログ化に取り組み、さらには、究極のハイ・レゾリューション・オーディオ・システム=PONO(ぽの、ハワイの言葉で正義を意味するものだという)まで開発し、世に送り出してしまっている。そう、ニール・ヤングは、行動の人なのだ。

『ア・レター・ホーム』のコンセプトは、そういった考え方や行動ともつながるもので、1947年製の簡易録音システムだけを使って録音されている。ジャケットにある電話ボックスのようなものがそれで、ニールは小さなギターを抱えてそこに入り、アルバムを仕上げてしまったのだ。回転ムラも雑音もお構いなし、というか、それらすべてを含めて、あくまでも楽しみながら、共同プロデューサーで録音システムの現所有者でもあるジャック・ホワイトとともに、しっかりとしたメッセージを投げかけている。

 CD版とは別に、LP2枚、シングル7枚、CD、録音の様子を伝えるDVD、ブックレットなどを収めた、強烈な内容のボックス・セットも同時にリリースされた。7枚目のシングルには、ボーナス・トラック扱いで、ディランの《風にふかれて》が収められている。 [次回12/2(水)更新予定]

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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