『ライヴ・アット・ザ・サムデイVolume 1』スティーヴ・グロスマン
『ライヴ・アット・ザ・サムデイVolume 1』スティーヴ・グロスマン

 1987年は前年から20組、約19%増しの123組が来日した。ショーターやハービーなど7組は2度は訪れている。凄まじい来日ラッシュはバブルの絶頂にも思えるが、多くが好景気と感じるのは翌年からだった。31組のフュージョン/ニュー・エイジ系が首位に返り咲き、30組の新主流派/新伝承派、28組の主流派、12組のヴォーカル、7組のフリー、6組のトラッド/スイング系、5組のビッグバンド(スイング、モダン)、4組のクラブ/ファンク系が続く。夏の野外フェスは「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」「ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル・イン・斑尾」「マウント・フジ・ジャズ・フェスティヴァル」など30あまりが開催され、観客動員数は延べ25万人を突破した。「富士通コンコード・ジャズ・フェスティヴァル・イン・ジャパン」が2回目を迎える。

 作品数は前年から7作、約22%増しの39作が録音された。スタジオ録音は15作とほぼ横ばいで、うち日本人との共演は8作(6作は和ジャズ)だ。ライヴ録音が24作もあるが、うち日本人との共演は5作(和ジャズは2作)しかなく、和ジャズ・ファンには悪いが期待が高まる。結局、ふるいにかかったのは6作ということに。選外とした作品、その事由や評価は【選外リスト】をご覧いただきたい。取り上げることを即決したのは、スティーヴ・グロスマン『ライヴ・アット・ザ・サムデイ』、ショーターとデイヴ・リーブマンによる『トリビュート・トゥ・ジョン・コルトレーン』、ジョン・スコフィールド『ピック・ヒッツ・ライヴ』だ。なお、チェット・ベイカー『メモリーズ』『フォア』、ジョージ・シアリング『デクスタリティ』は候補としておく。まずはグロスマン作から。

 スイングジャーナル1976年4月臨時増刊『世界ジャズ人名辞典』で、グロスマンは結構なスペースを割かれている。マイルス・グループ卒業生ゆえの優待か。デビューから5年あまりの25歳、在籍したのは1969年11月から70年6月の8カ月にすぎず、前半は推薦者のショーターと重なるのだが。グループに「加わって一躍名を挙げ<中略>久しぶりに現われた白人の才能あるサックス・プレイヤーとして話題になった」とある。ジャズを聴きだした時期と重なるがリアルタイムで注目してはいない。そもそも、当時はマイルス自体が聴かれてはいなかった。ある種の新しさと直向きさだけが取り柄みたいな在籍時の演奏を追ったのはずっとあとだ。リアルタイムで聴いて感心したのは、デイヴ・リーブマンと渡り合った『エルヴィン・ジョーンズ・ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』(Blue Note/1972)にとどまる。1970年代のグロスマンはこれ一作で十分だと思う。

 グロスマンがより広い層にアピールするようになるのは1980年代の後半から、彼がコルトレーン派からロリンズ派に「転向」してからだろう。タイトルといい編成といい、ロリンズの『ウェイ・アウト・ウエスト』(Contemporary/1957)に範を求めた『ウェイ・アウト・イーストVol.1』『Vol.2』(Red/1984)を聴くなり「こんなに巧かったの!」と驚嘆したのは筆者ばかりではあるまい。続く『ラヴ・イズ・ザ・シング』(Red/1985)も代表作に推すべき出来だった。振り返ってみれば、イタリアのレッドと日本のDIWから好盤や快盤を連発していたこの時期こそ彼の絶頂期ではなかったか。推薦盤はこの時期に「サムデイ」で録られ後年に同所から発表、2014年に来日記念盤として復刻された。『Volume 1』とあるから『Volume 2』も計画されていたのだろうが発表されてはいない。

 コルトレーンの《インプレッションズ》から。制動装置の壊れた暴走機関車さながら、脇目もふらず激走しつつ、時に高く時に低く汽笛を発する。「ブルー・トレイン」ならぬ「ブル・トレイン」だ。別れたはずのコルトレーンがあちこちで顔を覗かせ微笑ましい。

 オールディーズの《ミスター・サンドマン》はロリンズが愛奏しそうな好メロディー。テーマのロリンズ流の語り口に頬を緩めていたら、続く歌心とアイデアに富むアドリブの奔流に釘付けに。しかも一心不乱に見えて一本調子ではない。ソロ全体の構成も巧みだ。

 スタンダードの《アウト・オブ・ノーホエア》はビバップ全盛期に盛んに演奏された。テーマはロリンズ流だが、おおらかなフレーズと急速パッセージを交互させるソロ構成はコルトレーンの影響を受けたロリンズといったところか。新生グロスマンを満喫できる。

 オリジナルの《ニューヨーク・ボッサ》は仄かに哀調を帯びた佳曲だが、サビの部分で4ビートに転じて実に格好いい。重戦車グロスマンが軽やかで淀みない歌心で聴かせる。

 ラストはロリンズの《オレオ》だ。テーマに続いて5コーラスを一気呵成に吹き抜け、ピアノにまわしたところでフェードアウト。「チョットだけヨ」ならなくてもよかった。

 熱血ライヴだろうが奮闘ライヴだろうが快ライヴにはちがいない。グロスマンを支えるリズム隊も腕利き揃いで、なかでもツボを得た好ソロを見せる寺下誠(ピアノ)が光る。これを聴いたうえは、このときのほかの演奏も聴きたくなるのが人情というものだろう。残っていればだが、録音テープを精査のうえ改めて演奏を厳選し、それ相応の音質向上を果たせば傑作ライヴに昇格するものと信じて疑わない。その日を気長に待ちたいと思う。

 後先になったが、グロスマンは5度来日している。1975年10月、76年11月は菊地雅章=日野皓正の「東風」の一員で、86年1月、87年5月、2014年10月は「サムデイ」の招聘により単身来日した。昨年は体調が優れずあれこれ薬をのみつつも、テナーを構えるやいなや猛烈なブローで場を圧倒したという。同学年の我が身に照らせば不調は病気ではなくて常態だろうが渾身のブローには頭が下がる。そのときのスナップを見てピンときた。伝記映画が作られる暁には主役はマッツ・ミケルセンでお願いしたい。[次回10/26(月)更新予定]

【選外リスト】
3361*Live / Duke Jordan (3361*Black/1987.4.4) good~
Live Live Live / Duke Jordan (3361*Black/1987.4.4) good~
Dark Intervals / Keith Jarrett (ECM/1987.4.11) fine-, no jazz
My Favorite Things / Manhattan Jazz Quintet (PW/1987.4.14,19) good+
Sweet View / Eiji Nakayama-Don Friedman (Jazz Road/1987.4.16) J-Jazz
Far Away Land / Eiji Nakayama-Don Friedman (BT/1987.4.22) J-Jazz
Into the Outlands / SXL (Enemy/1987.7-8) fine-, no jazz
Live in Tokyo / Walter Bishop, Jr. (AMJ/1987.7.8) common
One Year Anniversary Album / Palm Springs Yacht Club (1987.8) private
Both Sides Now / Mal Waldron (Century/1987.8.11) unissued
Live in Japan / Louis Nelson (GHB/1987.8.21) good+
Jazz Time II / Joe Henderson (Forest/1987.9) good~
Up & Down / Milcho Leviev-Dave Holland (MA/1987.9.16) good~
GRP Super Live in Concert (GRP/1987.10.8) good+
Bop Stew / Phil Woods (Concord/1987.11.1) common
Bouquet / Phil Woods (Concord/1987.11.1) common
Take 8 / Concord All Stars (Concord/1987.11.1) good~
Ow! / Concord All Stars (Concord/1987.11.1) good+

【収録曲】
Live at The Someday Volume 1 / Steve Grossman

1. Impressions 2. Mr. Sandman 3. Out of Nowhere 4. New York Bossa 5. Oleo

Recorded at Jazz Club Someday, Tokyo, on May 27-31, 1987.

Steve Grossman (ts), Makoto Terashita (p), Yoshio Suzuki (b), Masahiro Yoshida (ds on 1, 2, 5), Arihide Go (ds on 3, 4).

【リリース情報】
1990 CD  Live at The Someday Volume 1 / Steve Grossman (Jp-Someday)
2014 CD  Live at The Someday Volume 1 / Steve Grossman (Jp-Think!)

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。