『エディ・コンドン・イン・ジャパン』エディ・コンドン・オール・スターズ
『エディ・コンドン・イン・ジャパン』エディ・コンドン・オール・スターズ

Eddie Condon In Japan / Eddie Condon All Stars (Chiaroscuro)
Recorded at Hibiya Public Hall, Tokyo, Mar.24, 1964

 ときは1920年の半ば、ところはシカゴのサウス・サイド、ニューオリンズから北上した黒人ミュージシャンの演奏に触発され、ジャズに挑んだ白人の高校生たちがいた。彼らは黒人ミュージシャンに学びつつも模倣に陥らず、シカゴ・スタイルと呼ばれることになる白人らしい感覚と洗練を備えた独自のスタイルを創り出す。彼らは1930年までに相次いでニューヨークに進出、やがて往時の覇気を欠いた安手のディキシーを量産したが、初期の演奏はスタイルとは呼べない過渡期のものであったにせよジャズ史に名をとどめている。その中心人物がエディ・コンドン(バンジョー、4弦ギター)で、戦前戦後を通じてディキシー界に君臨し、その普及に挺身した大物だ。来日当時、筆者の関心の的は専らヴェンチャーズでありビートルズであったが、いまなら一も二もなく駆けつける。まして当時のアーリー・ジャズ・ファンにとっては黒船襲来に類する大事件だったのではなかろうか。

 来日公演は3月から4月にかけて6週間に及んだコンドン最後の海外ツアーの一環で、直前にはオーストラリアとニュージーランドを回っている。ホーンズにはバック・クレイトン(トランペット)、ヴィック・ディッケンソン(トロンボーン)、バド・フリーマン(テナー・サックス)、ピー・ウィー・ラッセル(クラリネット)と、大物が顔を揃え、リズム隊にもディック・キャリー(ピアノ)、ジャック・レスバーグ(ベース)、クリフ・リーマン(ドラムス)と、コンドン一家の腕達者が並ぶ。さらに前年にモンクと来日、モンクを凌ぐ感銘を与えたジミー・ラッシング(ヴォーカル)が加わるという、今にして思えば驚異の顔ぶれだ。ただ、バックとヴィックは中間派だし、レパートリーにはディキシー・ナンバーよりスウィング・ナンバーが多く選ばれ、全員参加型ではなくホーンズをフィーチャーしたナンバーをまじえるなど、時代の流れを感じさせる仕様になっている。

 故いソノてるヲ氏のMCで開幕、「いままでオールスターズと名のつくものは沢山ございましたが、これこそ正真正銘のオールスターズです」に続いて、盛大な拍手のなか一同が登場、親分がメンバー紹介を始める。ホーンズの紹介時には逐一歓声があがり、なかでもバックのときは一際高く、あとで親分が「有名なんだ」ともらすほどだ。期待に応えて、ソロ・ナンバー《サヴォイでストンプ》を筆頭にバックは快調、立て付けがよく露出度の低いのが惜しまれる。ヴィックはノンシャランな持ち味を発揮するが上々にとどまった。バドが予想外にいい。かつてのポキポキ奏法はどこへやら、ウォームでスムースな奏法が好ましく、ソロ・ナンバー《スリー・リトル・ワーズ》ではモダン派を思わせるほどだ。超個性派のピー・ウィーはやはりディキシーでは冴えない。曲によって舌足らずに響く。独り異空間を漂うソロ・ナンバー《ピー・ウィーズ・ブルース》が当夜の白眉になった。

 終盤はジミーのステージだ。荒れや振り絞りは目立たず、後期にしては好調と言える。最後は全員参加の《ロイヤル・ガーデン・ブルース》、快活でブレイクの連続も楽しい。リズム隊は堅実なサポートを見せ、数曲に聴くキャリーのアルト・ホーンも実に達者だ。親分のプレイにはふれなかったが、聴こえやしないし、聴こえたとしてもリズムを刻んでいるにすぎない。なにしろソロをとらない、いやとれない人なのだ。それでも、気さくで貫禄十分の進行から親分肌は伝わる。ディキシー界のドンとして君臨しえたのもそうした気質によるのだろう。プレイヤーとして論じる対象ではないが敬愛すべき人物に思える。1960年代では『シカゴ・アンド・オール・ザット・ジャズ』(1961年10月/ヴァーヴ)のほうが名高いが、よく言えばリラックスした、悪く言えば褌のゆるんだ演奏だ。本作こそ1960年代の(つまり最後の)コンドン一家の名盤だと確信する。71分19秒を飽かせない。

【収録曲一覧】
1. Introduction
2. I Can’t Believe That You’re In Love With Me
3. Pee Wee’s Blues (Russell+rhythm)
4. Stompin’ At The Savoy (Clayton+rhythm)
5. Rose Room
6. Manhattan (Dickenson+rhythm)
7. Caravan
8. Basin Street Blues
9. Three Little Words (Freeman+rhythm)
10. I Would Do Anything For You
11. All Of Me
12. Am I Blue
13. When You’re Smiling
14. Blues Medley: Going To Chicago - Every Day - See See Rider
15. Royal Garden Blues

パーソネル
Buck Clayton (tp), Vic Dickenson (tb), Bud Freeman (ts), Pee Wee Russell (cl), Dick Carry (p, alto horn), Eddie Condon (g), Lack Lesberg (b), Cliff Leeman (ds), Jimmy Rushing (vo on 11-14)