『Sweet Rain』Stan Getz
『Sweet Rain』Stan Getz
『BILL EVANS AT THE MONTREUX JAZZ FESTIVAL』BILL EVANS
『BILL EVANS AT THE MONTREUX JAZZ FESTIVAL』BILL EVANS
『Smokin' At The Half Note』Wes Montgomery & Wynton Kelly
『Smokin' At The Half Note』Wes Montgomery & Wynton Kelly
『Jimmy & Wes: Dynamic Duo』Jimmy Smith & Wes Montgomery
『Jimmy & Wes: Dynamic Duo』Jimmy Smith & Wes Montgomery
『The Cat』Jimmy Smith
『The Cat』Jimmy Smith

 ヴァーヴの3回目です。私が四谷にジャズ喫茶「いーぐる」を開いたのが1967年。やはり開店当初の新譜は思い出深いもの。1967年録音のスタン・ゲッツ『スイート・レイン』や翌68年の『モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス』などは、壁にアナログ・ジャケットを飾っていた状況まで鮮明に覚えています。とりわけ、エヴァンス盤はモントルーの青い空がニコチン焼けで黄色く染まってしまったことなど、時代を感じさせますね。ともあれジャズ激動の時代と言われた60年代後半、ヴァーヴはかなり良質の新録音を行っていたのです。

 内容に触れれば、冒頭のフランス語によるアナウンスが印象的なモントルー・ライヴは、気合充分なエヴァンスの新生面を拓く傑作として高く評価され、リクエストもたいへん多かったのです。また、ゲッツ盤も60年代初頭に大ヒットを飛ばした一連のブラジルものの延長での評価と同時に、なんと言ってもサイドに参加した新人、チック・コリアに対する注目度が高かった。チックの斬新な演奏も含め、ポピュラリティとジャズとしての質の高さを兼ね備えた名盤です。

 1965年録音と、若干時期は遡りますが、この時代はアメリカと日本で情報のタイムラグが1~2年あったので(何しろ重いレコード盤は船便が主流だった)開店当時は新譜に近い感覚だったのが『ハーフ・ノートのウェス・モンゴメリーとウィントン・ケリー』です。まあ、ヴァーヴは伝統的に大物ミュージシャンの顔合わせものが多いのですが、これは60年代当時のビッグスターがガッチリと向き合った名演。ゲッツ盤と同様、人気と内容が伴った傑作です。

「顔合わせもの」といえば、ジミー・スミスとウェスの『ダイナミック・デュオ』も二人でホットドックだかを分け合う親しみやすいジャケットの印象とともに、60年代ヴァーヴらしい作品。実を言うと、1950年代にブルーノートで大活躍したジミー・スミスですが、当時は意外とジミー・スミスのブルーノート盤は知られておらず、結果としてさほど彼の人気は高くなかった。まあ、オルガンに対する「偏見」という、今では考えられない風潮もあったのですが……。

 それはさておき、彼の人気が再び沸騰したのが1964年録音の映画音楽『ザ・キャット』の大ヒットによってです。このアルバムも実に良くリクエストがかかると同時に、アップテンポでキャッチーなタイトル曲など、バーなどジャズ喫茶以外の場所でも良く聴きましたね。このアルバムは、ラロ・シフリンの斬新なアレンジが聴き所となっていて、60年代ジャズ・シーンが抱えていた問題を浮き彫りにしているとも思えます。

「問題」というのは、ビートルズのアメリカ上陸をきっかけとし、ジャズが「マーケット」というレベルでロックと競合するという、考えようによっては理不尽な状況のことです。海を隔てた日本から見ている分には、コルトレーンの活躍など60年代はまだ活況があったように思えますが、60年代はジャズクラブの閉鎖やロックの店への衣替えなどが相次ぎ、ジャズマンのヨーロッパ移住が盛んになった時期。そうした状況においてアレンジや大物ミュージシャンの顔合わせ、映画音楽への接近など、ヴァーヴはそれなりに努力していたと思うのです。[次回8/18(月)更新予定]