(撮影/原田和典)
(撮影/原田和典)
(撮影/原田和典)
(撮影/原田和典)
(撮影/原田和典)
(撮影/原田和典)

 あれは8月8日の何時だったろう。もうそろそろいい加減に寝よう明日も早いからなと思っていた頃、閃光のごとく速報が飛び込んできた。
“アップアップガールズ(仮) 富士の火口前で決行!大成功!”
 以前からアナウンスされていた「富士山 山頂頂上決戦(仮)」のことだ。おおっ、ついにやったか。途端、目の前がにじみ、息苦しささえ覚えた。自分の部屋の中が急に地上3776メートルの高所に空間移動したような錯覚が来た。アプガよ、快挙すぎる。もう寝てる場合じゃない。さっそくCDに手を伸ばす。続いてDVDを見る。まわりへの音漏れを考慮しつつ、オールナイトでアプガ祭り開催だ。

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 それにしてもすごい、としかいいようがない。文字通り、前代未聞である。テッペンまで自力で登って、目下のニュー・シングル《全力!Pump UP!!》を歌って踊って、さらに自力で下山してきたのだ。その模様はテレビや新聞でもけっこう報道されていたし、特殊マスクをつけてジムでトレーニングを続けるアプガの意気込みは「ターザン」誌で紹介されていた。

 準備期間は半年以上かかった。環境庁や山梨県や静岡県や浅間大社へ趣旨を説明し、許可をとるのも並大抵ではなかったはずだ。「なぜ(仮)なのですか」と質問する役人もいたのではなかろうか。だが、アプガはやりきった。安全面を考慮して日程の告知は一切されなかったが、ファンからプレゼントされたメッセージ入りのタスキと共に頂上にのぼったアプガは「ファンの情熱」を目いっぱい感じながらパフォーマンスしたに違いない。

 ぼくが“富士山後”のアプガを初めて見たのはその3日後、夏ツアー「アップアップガールズ(仮) 2014 Summer Live Tour Hot! Hot! Hot!」の前哨戦にあたるイベントで、である。正午少し過ぎに甲府駅に着くと、さっそく《サマービーム!》をリハーサルする音が聴こえてくる。駅前の「よっちゃばれ広場」が会場だ。すさまじい酷暑、日陰などどこを探してもない。ギラギラの太陽光線が皮膚を刺激する。本番は12時半すぎから開催。国指定重要文化財に指定されている「藤村記念館」の黒いドアを開けて出てきたアプガは、以前よりもさらにたくましく勇ましく見えた。「(山梨県では)この前、富士山でライヴをしてきたばかりですが、下界のライヴは今回が初めてです」と語る佐保明梨がりりしい。

 さらに午後7時から、南甲府駅から徒歩15分ぐらいのところにある「甲府CONVICTION」で「アップアップガールズ(仮) 2014 Summer Live Tour Hot! Hot! Hot!」の第1回公演が開催された。従来以上に激しい内容になるだろうとは予測できたが、富士山効果というのだろうか、とにかく1曲目より2曲目、12曲目より13曲目という感じで、時間が経つごとにさらに歌やダンスにパワーとうねりが加わっていくのだ。途中のMCコーナー「ドキドキワクワク本日のお題はなんじゃろなBOX」(“(仮)”という文字のついた箱に入っている“お題”に基づいてトークする)では、当然ながら富士山のエピソードが飛び出した。山小屋で食べたハンバーグのこと、下山中に「お寿司を食べたい」とひたすら思っていたこと、雲の間から街並みが小さく見えて自分のいる場所の高さに改めて驚いた、などなど。関根梓は下山のペースが崩れそうになったとき、すかさず佐藤綾乃が駆け寄ってきて先に回り「あず大丈夫」と声をかけてくれたのが忘れられない、というようなことを語っていた。その姿が、すごくかっこよかったのだという。とにかく熱気だらけのステージだから、会場内の空気は薄くなるばかり。佐保明梨は「富士山より空気が薄い」と言い放った。

 翌12日、アプガは宇都宮に移動した。天気はあいにくの大雨。まずは昼、東武宇都宮百貨店屋上でのイベントだ。屋上とはいっても屋根のある箇所でライヴが行われたのは幸い。コンクリートの床や背後の壁にアプガの熱唱が反響して妙に生々しい。「ジメッとした天気ですが、戦闘態勢1500%で行きます」と佐藤綾乃が気炎をあげる。《ストレラ!~Straight Up!~》はもちろん、春ツアーでも好評を博したハーモニーつきのヴァージョンだ(ピアノの経験を持つ新井愛瞳を中心に、練習を重ねたのだという)。夜の「HEAVEN'S ROCK Utsunomiya」公演が始まる頃には雨もほぼやみ、「アプガを楽しむぞ」という気持ちにいっそうの拍車がかかる。ぼくはもともとクジ運がよくないけれど、この日のチケットの整理番号には、ずっこけた(先行でとったのに)。だからアプガの姿はほとんど見えなかった。でも満足できた。それはなぜか。音だけ聴いていても抜群にいい気分になれるからである。そして歌声に接していると、ステージ上でのメンバーがどんなに嬉しそうな表情でパフォーマンスしているかが、勝手に脳内で想像再生されるのだ。

 16日は群馬の高崎で催された「ヤマダ電機~ふれあい夏祭り」に行った。お笑い、アイドル、スポーツなどの第一人者が次から次へと登場する豪華イベントだ。出店も食べ物ありゲームありと豪華、老若男女がいろんなところから集まってくる。アプガはアイドル代表として計3度、ライヴをおこなった。1回目のときから天気は怪しかったが、まだ小雨がふる程度。《バレバレI LOVE YOU》エンディングの恒例“バレチュー”は群馬出身の新井愛瞳が行った。2回目のライヴは大雨のため、予定時間からかなり遅れて開催。古川小夏の自己紹介中に合いの手をいれるかのように、巨大なカミナリが鳴った。《アッパーカット!》の勝者は新井。その後3回目のライヴが行なわれる頃には雨も完全にやんだ。2回目と3回目で《全力!Pump UP!!》を歌った以外、曲目のダブりはなし。のべ12曲のパフォーマンスに「高崎に来てよかった」と満腹感を味わった。ところで新井愛瞳は8月22日、「ぐんま観光特使」に委嘱された。27日には群馬県庁で委嘱式も行なわれる予定だ。

 17日は両国国技館でDDT両国大会「両国ピーターパン2014~人生変えちゃう夏かもね!?」を見た。プロレスで大会場が超満員になる時代がまた来た、ということが嬉しい。アプガは《チョッパー☆チョッパー》の短縮ヴァージョンを歌い、“Tシャツバズーカ”に取り組んだ。10月には鉄工所を舞台にDDTと再共演、アイドルとプロレスの融合に取り組むことも発表された。

 翌18日は夜7時から、本厚木駅そばの「Thunder Snake」で決戦。それに先がけ昼過ぎから「まちだターミナルプラザ」でイベントがあった。アプガがここに登場するのは昨年11月3日の《Starry Night/青春ビルドアップ》のリリイベ以来だと思う。MCでは厚木のライヴにかける意気込みもたっぷり話してくれた。仙石みなみが「厚木の“厚”の字のように分厚い、ボリューミーなライヴをしたい」と語ると、すかさず古川小夏が「ボリューミーの使い方が違うんじゃないか」とツッコミを入れるあたりも最高。「Thunder Snake」公演も、いうまでもなくすさまじいものだった。オープニング・アクトを飾った“Bitter & Sweet”の田﨑あさひが「私は佐保明梨ちゃんと同い年で、しかも空手をやってたんです」と言って正拳突きをしたあたりから、客席のボルテージがあがりっぱなしだ。アプガのライヴが始まると、佐保も空気を切り裂くような“空手の型”を(いつものように特別に)披露した。「アップアップガールズ(仮) 2014 Summer Live Tour Hot! Hot! Hot!」の曲目は公演によって大きく異なる。それほど今のアプガは充実したレパートリーを数多く持っている。この日は《Rainbow》も聴かせてくれた。ライヴで味わうのは本当に久しぶりだ。忘れもしない昨年の6月9日、TFMホールの定期公演「古川小夏スペシャル」で考案された振り付けを用いての《Rainbow》。どこまでも胸を熱くさせる。

 19日は渋谷TSUTAYA O-EASTで「TOWER RECORDS Presents SuG LIVE BATTLE 2014」が行なわれた。SuGは2006年結成のロック・バンドだ。他の出演者は赤飯ロマン横丁、稲川淳二、そしてアプガ。アプガはアイドル代表という位置づけになる。稲川淳二の怪談が会場をひんやりさせた後、アプガが渾身の熱いライヴを繰り広げる。この温度差がたまらない。アプガ終了直後、SuGや赤飯ロマン横丁を目当てに来たのであろう女性ファンが「さっきのアイドル、良かったー」、「ピンク、超かわいい。なんて名前?」などと言いながらスマホで調べていた姿が目に入ってきた。

 20日、昼は「ららぽーと柏の葉」でイベントだ。もうアプガにとってはホームグラウンドのひとつといっていい場所だろう。リハーサルのときは曇っていたが、本番までの間にカンカン照りとなり、アプガもファンも誰も彼も汗だくだ。《アッパーカット!》に始まり、《お願い魅惑のターゲット》で終わる黄金のセットリスト。そして夜は柏駅から徒歩5分ぐらいのところにある「Palooza」でライヴだ。この日ならではのレパートリーとしては《マーブルヒーロー》、《ナチュラルボーン・アイドル》、《Beautiful Days!》が目を引いた。前者では関根梓が魅力を全快し、後者では歌詞の主人公のひとりになりきって全身で切なさを表現する佐藤綾乃に引き込まれる。「ドキドキワクワク本日のお題はなんじゃろなBOX」のコーナーでは、佐保明梨が「お気に入りだった部屋の電気(照明)を母親が無断で替えたこと」に憤り、森咲樹は「よせばいいのに」的なメンバーの視線を浴びつつ堂々とギャグを披露。“(歌いながら)かしわかしわかしわ~、ちょっと待って、歌詞は?”と言い切った少し後、シーンとした空気を突き破るかのように拍手の音が聞こえてきた。森ティーをこよなく愛する勇者ファンによる、渾身のスタンディング・オベイションである。

 22日、アプガは岐阜に向かう。12時半からショッピングモール「モレラ岐阜」内にあるタワーレコードでイベントをするためだ。ここに行くためには大垣駅から「樽見鉄道」に乗る必要がある。大体1時間に1本、1両編成だ。畑の中をひたすら30分近くかけて進むと、右手にポツンと巨大な建物が見えてくる。それがモレラ岐阜だ。タワーレコードの店内は広く、洋楽の品揃えも充実していた。連日のハードスケジュールでもアプガの面々は一切、疲れを感じさせない。そしてファンにも疲れが見えない。アプガ周辺の健康率は、ものすごく高いのではと思う。夜、岐阜駅から徒歩10分ほどの「clubーG」で行なわれた公演も凄まじい内容だった。客席は段差があって見やすく、ミラーボールが設置されているのも豪華だ。《なめんな!アシガールズ》に鳥肌が立ち、《チェリーとミルク》に胸がしめつけられる。森ティーのギャグは《ネバー岐阜アップ》。だんだんふつうに面白くなってきたけれど、心のどこかで“すべる森ティー”を期待している自分に気づく。

 アプガ遠征に出ると、必然的に早寝・早起きになる。23日も7時には起きて食事をして準備万端だ。この日、10時50分からアプガは野外フェスティバル「FREEDOM NAGOYA 2014」に出る。これに間に合わせるためには8時には岐阜駅を出たほうがいい。大高緑地公園特設ステージについたぼくを待ち受けていたのは灼熱の太陽と、どこまでも広がる緑の風景だった。アプガは会場内にある2つの大きなステージのうち、向かって右側の「MEION~STAGE」に出演。オープニングの「(仮)は返すぜ☆be your soul」では、佐藤綾乃が“帰りのカフェできいて”というパートを“コメダ珈琲できいて”と変えて歌っていた。《サマービーム!》の連日のアドリブに接していても思うのだが、本当にアプガのライヴは何が飛び出すかわからない。毎回、必ず違う。だから繰り返し、足を運びたくなるのだ。[次回10/6(月)更新予定]