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 またの名をデイル・ターナー……いやいや、これは映画「ラウンド・ミッドナイト」に出演したデクスター・ゴードンの役名だった。

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 1960年代の一時期、アメリカのジャズメン達は仕事の場を求め、またミュージシャンの地位や人種の問題に係って続々とヨーロッパへ渡る現象があった。

 時代はちょうどその頃、パリに渡ったデイル・ターナーは一流のサックス奏者でありながら、アルコールやドラッグ中毒で病院へ入れられるようなすさんだ日々を送っていた。 一方、ジャズ好きだけれどデイルの演奏を見にクラブに行く金もないフランス人のビンボー・イラストレイターは、店外に漏れてくる音を毎夜聴くうち、創作意欲をかき立てられ、やがて成功をつかんでいく。

 イラストレイターに友情と優しさで励まされ、再起を決意したデイルは遂に往年の演奏を取り戻して素晴らしいレコーディングを成功させる。……メデタシめでたし……と言うありがちなハッピーエンド映画「ラウンド・ミッドナイト」。

 アメリカからパリに移り住んだピアニスト/バド・パウエルとフランス人イラストレイターとの間にあった事実を元に、1986年に作られたこの映画は、しかし、だがシカ~シ! ジャズ好き、特にデクスターを知るジャズ・ファンにとっては単なるハッピーエンド・ジャズ映画ではないのです。

*注、ここからはデクスター・ゴードン本人の事。

 酒とクスリから精神異常をきたし、病院に担ぎ込まれたり、逮捕歴まであって一時引退状態にあったデクスターが努力の末にカムバック~名門ブルーノートと契約し、名演を発表してヒットさせた。後にパリに渡って代表作の一つ「アワ・マン・イン・パリ」をレコーディングしている。

 ……と、デクスターの足跡はまさに「ラウンド・ミッドナイト」のデイルそのものじゃあないですか。しかも、映画の中でもプレイは勿論、淡々としゃべるデイル、一挙手一投足、その仕草は、演じていると言うよりむしろデクスター・ゴードンそのものじゃあないですか。

 ここにあるデクスター晩年のポートレイトは、ぼくがこの映画を見たしばらく後に京王プラザホテルの一室で撮影したものです。同行したインタビュアーはデクスターのしゃがれた声の会話が途切れる毎に「あの映画とおんなじだ」と言いたげに何度も笑って振り返るので、ぼくも嬉しくて何度も笑顔でうなずいていました。

 眼下に新宿駅が見えるぼくの最後のデクスターの写真は、映画の中のデイル・ターナーとデクスター・ゴードンが淋しくオーバーラップする思い出深い写真です。

 そして、ここにある撮影年の最も古いデクスターの写真は、ぼくがジャズ・カメラマンとしてデビューした処女作品とも言える、ぼくにとってとても大きな意味のある写真です。

デクスター・ゴードンDexter Gordon (allmusic.comへリンクします)
→サクソフォーン奏者/1923年2月27日~1990年4月25日