薄毛を認識している男性は約1240万人(日本医事新報2004年)と言われている。はげ・薄毛の最初の治療には薬が用いられるが、薬で効果がない場合、自分の毛を移植する「自毛植毛」という治療法がある。

 東京都在住の橋本大悟さん(仮名・36歳)は25歳ごろから薄毛に悩み、フィナステリドやミノキシジルを試したが効果がなかった。遺伝のせいだと悲観して、仕事にも行けなくなり、30代になると引きこもるようになった。なんとかしてやりたいと思った両親は、知人から自毛植毛のことを聞き、紀尾井町クリニックを紹介してもらった。

 自毛植毛では、頭皮に1~3本ずつの束になって生えている毛の束を、毛根から生えているそのままの状態(毛包単位)で植毛する毛包単位植毛(FUT法)がおこなわれる。毛包の採取はおもに後頭部からだ。後頭部は5αリダクターゼII型が少ないので、しっかりした毛を採取でき、移植後も濃い毛が生え続ける。

 同クリニックでは、移植する毛を後頭部の耳の辺りの高さから毛根のついた頭皮ごと10~15ミリの幅で横に30センチ程度、細い帯状に切り取り、毛包を2千~2500株採取。その後それぞれ毛の束ごとに微細に分け、生え際や頭頂部に移植する。採取した部分は丁寧に縫合するので、傷痕は1ミリ程度のラインが残るだけで、ほとんど目立たない。

 橋本さんは、植毛を多く手がける院長の柳生邦良医師の説明を聞き、最後の希望として手術を受けることを決意したという。

 手術は局部麻酔で、4~5時間で終了。入院は不要で、翌日から通常の生活を送れる。ただし毛根が定着するまで、刺激を与えることは禁物。洗髪や睡眠時に注意が必要だが、1週間気をつければ定着率は95%以上だ。移植後、約1カ月で毛は一度抜け、その後2~3カ月でうぶ毛が生え、4~5カ月で太い毛になる。その後は後頭部と同じように5~6年の周期で生えかわりを繰り返す。

 橋本さんは生え際に植毛を受けた後、気持ちが前向きになり、外出もできるようになったという。1年後には父親の会社を手伝い、営業にも出られるようになった。約2年後には、頭頂部にも植毛を受けた。柳生医師は次のように話す。

「一度植毛術を受けると『人生が変わった』と言う人がほとんどで、1年後くらいに再手術で追加植毛を望む人が多いですね。再手術の際には、1回目のラインと同じところから採取するので、傷痕が増えることはありません」

 植毛を終えたら、医師の指導に従ってケアを行い、とくに問題がなければ以降の通院は必要ない。採取部分の縫合には自然に分解・吸収される糸を用いるので、抜糸も不要だ。自費診療なので前頭部だけで80万円前後と高額だが、その後のメンテナンスがいらないことや、一生しっかりした毛が生え続けることで患者の満足度は高いという。

 同クリニックでは採取できる株数を増やすために、さらに高度な技術を要する毛包単位くりぬき法(FUE法)の併用も試みている。FUE法は約1ミリの穴を開けて毛包をくりぬく。傷痕が小さいため、FUT法のライン以外の部分からも採取することができる。

「自毛植毛でむずかしいのは病院選びかもしれません。確実で安全な施術を受けるためには、症例を多くもっている、事前のカウンセリングを医師自身が丁寧におこなってくれるなどを目安にするといいでしょう。また人工植毛は避けてください。定着せず、毛根に炎症を起こして皮膚自体がダメージを受けてしまいます」(柳生医師)

週刊朝日  2014年10月24日号より抜粋