日本人は比較的、協調性を重んじる傾向にあるといわれている。だが、そうした意識が日本人の根幹にあるからこそ、戦後の日本は高度経済成長を果たすことができ、さらには大きな災害に見舞われた際も、暴動や強奪が多発するということがなかったのかもしれない。

 もちろんそれは日本人の美徳ではあるが、その一方で協調性を重んじるあまり世間を気にしすぎ、「世間=しがらみ」にとらわれながら窮屈に生きている人も少なくないだろう。

 たとえば人生の折り返し地点でもある50歳を過ぎたら、そのようなしがらみを上手に捨て、もっと自分のために人生を生きることを考えてはどうだろうか―― そう提案するのが、本書『しがらみを捨てると楽になる』(朝日新書)だ。

 著者の保坂隆氏は、慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科に入局。精神医学、心身医学などを専門とし、現在は聖路加大学病院精神腫瘍科部長兼、聖路加国際大学臨床教授を務めている。そんな保坂氏は、「50代以降はしがらみを捨てるべき」と語る理由についてこう述べている。

「人生の成熟期を、世間の目を気にして生きるのは、あまりにもったいない。これまで一生懸命に、家族のため、社会のために働いて生きてきたのだから、『しからがみ=世間』とは少し距離を置いて、自分のために人生を生きることを考えてもバチは当たらないはずだ。(中略)人生は有限だが、みんな、普段はそんなことを忘れて生きている。死期が迫ってから、いろいろと後悔するのも人間の性だと思う。(中略)できれば早い時期に『しがらみ=世間』」に縛られずに、ほんとうに自由に生きたいように生きることできれば、より幸せに、充実した後半生を送ることができるのは間違いない」

 とはいえ、ひと口にしがらみを捨てる、と言っても、長年の付き合いの中から生まれたしがらみは、そうそう簡単に捨てられるものではないだろう。具体的にはどうすればよいのか。本書の中で保坂氏は、しがらみを捨てるコツの一つとして、「いい人」を演じるのをやめることを推奨している。

「自分は『いい人』『いい顔』でいるつもりでも、周囲のだれもが良い評価をしているとはかぎらない。それが世の中というものだし、人間関係の複雑さでもあるのだろう。(中略)『いい人』をやめたからといって周囲の評価が一気に下降するということはない。それどころか、『いい人』を返上したことで、『自分をしっかり持っている人』という新たな評価がもたらされるかもしれない」

 さらに本書では、あふれかえるモノへの執着を断つことで、身の回りのしがらみを断つことができるとも指摘している。

「物欲のおもむくままに行動していたら、生活環境はモノであふれかえり、窮屈にならざるを得ない。すっきりシンプルな生活はどんどん遠のき、空間的に窮屈というだけでなく、心も窮屈にさせてしまうだろう。必要なものが必要なだけある生活が、50代以降を心穏やかに過ごす秘訣の一つだ」

 人生一度きり。人生も後半戦に入ったら、より充実した生活を送れるように、また悔いなく人生を過ごすために、上手な「しがらみの捨て方」を学ぶのは無益なことではないだろう。本書はそのためのヒントを多く与えてくれるに違いない。