睡眠時に約90分間隔で訪れる浅い眠り、レム睡眠。その間に激しい寝言を言ったり、暴力を振るったりする病気がレム睡眠行動障害だ。

 神奈川県在住の岡田和孝さん(仮名・70歳)は、定年退職直前の64歳ごろから、夜中、夢に反応して大声で暴言を吐くようになった。横で寝ている妻は仕事のストレスがたまっているのだろうと考え傍観していた。しかし、65歳で定年退職をした後にもその状況は一向に変わらず大声をあげるので、起こして聞いてみると、元上司とつかみあいのけんかをしている夢を見ているということだった。

 そんなある日、テレビ番組で岡田さんとまったく同じ症状のレム睡眠行動障害のことを知った。さっそく同居する息子にインターネットで睡眠障害を専門に診ている病院を調べてもらい、妻とともに、スリープ&ストレスクリニックを訪れた。

 診察した院長の林田健一医師の問診の結果、その症状などから岡田さんはレム睡眠行動障害と診断された。念のため、終夜睡眠ポリグラフ検査も実施した。一晩クリニックに泊まり、睡眠状態の脳波、呼吸、筋電図ほかを測定したところ、レム睡眠時に筋活動が消失しないなどの特徴的な検査結果が出たため、病気が確定した。

「通常、治療は抗てんかん薬やパーキンソン病の薬を処方するのですが、岡田さんの場合は、症状の頻度や出かたなどの要因を考慮して、まずは漢方薬の抑肝散(よくかんさん)を処方して様子をみることにしました」(林田医師)

「この病気は薬による対症療法のみで、病気をもとから断つ治療法はいまのところありませんが、睡眠専門医(睡眠医療認定医)のもとで管理してもらえば、それほど深刻な病気ではありません。昨今、パーキンソン病やレビー小体型認知症との関連性もいわれていますが、あまり神経過敏にならず、半年から1年に一度、神経内科などで検査をして、経過観察していくことが重要です」(同)

 もし症状が現れたら、早めに専門医を受診するべきだろう。また、レム睡眠行動障害は、脳の加齢変化による神経伝達障害と、ストレスや過去の嫌な記憶、不安、過度の飲酒など心身状態の乱れが結びついたときに起こりやすくなる病気であるため、日常生活をできるだけ快適に送れるように自己管理をしていくことが大切である。

週刊朝日 2012年12月21日号