幅広い世代から人気のゴールデンボンバー (c)朝日新聞社 @@写禁
幅広い世代から人気のゴールデンボンバー (c)朝日新聞社 @@写禁

 楽器の演奏はあくまで“フリ”のエアバンド、金爆ことゴールデンボンバー。「演奏できないバンド」はいまや、武道館を埋めるほどの人気を集めている。その才能を見いだし、メンバーの代わりに楽器を演奏して金爆の音楽をつくり上げてきたゴールデンボンバー・サウンドプロデューサーのtatsuoさん(35)に、彼らの魅力を聞いた。

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 最初の出会いは8年前でした。僕は当時、あるビジュアル系バンドのサウンドプロデューサーをしていて、ある日、そのバンドを見にライブハウスに行ったんです。他のバンドも出演していて、たまたま見続けていたら、ゴールデンボンバーが出てきました。

 びっくりしましたよ。楽器を演奏しないバンドなんて見たことがないし、ボーカルの鬼龍院翔が「ギターソロ、喜矢武豊!」と言うと、喜矢武がいきなりステージの上でキャベツの千切りを始めたんですから。今もライブで溶接や書き初めなんかをしていますけど、突拍子もないパフォーマンスは今と変わりません。そのときのお客さんは……、30人もいなかったですね。

 彼らは当時、事務所に所属していませんでした。だからライブの次の日に、僕が自分の事務所で「おもしろい奴らがいる」と紹介して、すぐに契約を交わすことになったんです。

 楽器を演奏しないバンドなんて、と批判が出ることは予想していました。僕自身、本格的なバンドを組んで音づくりに凝っていました。同じように音楽に信念を持っている人の中には、エアバンドを良く思わない人もいたと思います。実際に「ネタ」などと白い目で見られたりもしました。

 ただ、僕が音楽の仕事を続けてきて大事だと思うのは、自分のこだわりよりも、人々をいかに楽しい気持ちにさせられるか、です。音楽的には邪道に見られるかもしれませんけど、ライブを実際に見てみて、ファンを楽しませようという「誠実さ」を感じたんです。

 それに曲も良かった。ゴールデンボンバーの曲は基本的にボーカルの鬼龍院が作っています。彼はある程度、楽器が弾けます。彼が作る曲には、歌謡曲のテイストが入っていて、聴いていて懐かしい感じがするんです。また、歌詞には彼の本音がにじみ出ていて、それが聴く方の共感を得られているのだと思います。

 初めて見たライブでは、鬼龍院が作った音源をCD-Rに録音し、それを一曲一曲再生していました。事務所に所属してからは、鬼龍院が作った音源をもとに、僕がギターやドラムなどの楽器をすべて演奏して、音のクオリティーを上げるという作業をしています。

 最初はレコード会社もまったく相手にしてくれず、難しい時期もありました。風穴を開けたのはインターネットでした。楽曲やパフォーマンスの映像をYouTubeやニコニコ動画にアップして、金爆の存在が「おもしろい」と思われた。そこからは一気に加速して、去年はついに、日本武道館でのライブがかないました。リハーサルで曲が流れたときには、僕も感慨深い気持ちになりました。同時に、世の中って何が起こるかわからないな、とも。

 金爆のメンバーに接していて感心するのは、武道館の舞台に立った後も、観客30人のころとまったく変わっていないことです。偉ぶらず、電車にも普通に乗って、何よりどうすればファンを楽しませられるかを常に考えています。その誠実さを忘れず、今後も走り続けてほしいと思いますね。

週刊朝日  2013年9月13日号