近現代の、物故詩人を含む詩人69名の、海にちなんだ作品を集めたアンソロジー。真正面から海を捉えた創作のほか、言葉の海など比喩的な海も含まれる。
 三浦半島で生命誕生の営みをつぶさに見つめた「アカテガニの産卵」。かつて厚岸から出港し、沈められた船から無言で帰還した兵士らを偲んだ「ニシン」。指先まで霧に濡れ、耳元に一瞬ケルトの歌声を聴く「釧路の夏」……。郷愁や遠い種への憧れと交歓のほか、東日本大震災の原発事故を予言するかのような作品も興味深い。また、「遠い深い重たい底から。/暗い見えない涯のない過去から。/づづづづ わーる」と轟く草野心平の「夜の海」を始め、河邨文一郎の「サロベツ原野」、更科源蔵の「怒るオホーツク」、中原中也の「月夜の浜辺」などよく知られた詩群も味わえる。

週刊朝日 2016年9月2日号