日本人がかつて性におおらかだったのは知られた話だが、果たしていつからなのか。本書は、近代以降の性風俗史を専門にしてきた著者が古代まで手を広げて完成させた性の通史だ。
 イザナギとイザナミがどのような体位で交わったかを検証し、夜這いを始めたのは大黒さまと突き止め、古代の神々は混浴の果ての奔放な営みで生まれたと指摘する。
 中世以降も祭りに伴う男女の雑魚寝や、夏の風物詩の盆踊りは男女が交じり合う乱痴気騒ぎのレジャーだったからこそ広く浸透したという。明治政府が風紀の乱れを懸念し、盆踊り禁止令を出したところ暴動が起きたというから、民衆のエロへの執念はすさまじい。
 もちろん日本人が年中、みだらな欲望にまみれていたわけではない。非日常で性を解放することが、規範意識や同調圧力が強い日本では、社会の重要な調整弁だったことを本書は示唆する。明治期の西洋化でエロスが一気にタブー視され始めたことは、地域共同体が経済だけでなく性で強固に結びついていたがために、その崩壊を招いたとも言えるのでは。

週刊朝日 2016年4月29日号